野村誠の作曲日記

作曲家の日記です。ちなみに、野村誠のホームページは、こちらhttp://www.makotonomura.net/

循環するアート〜アーツマネジメントと不耕起栽培

今日は、ようやく畑に出かけることができまして、ジャガイモの種芋や、二十日大根の種、人参の種、コリアンダーの種などを蒔いてきました。ナヤカフェのゆうき君に教わったやり方に従い、耕さない農法(不耕起栽培)でやることに。そうやっていたら、偶然、ゆうき君が妖精のように現れて、アドバイスをしてくれて、そして、また妖精のように去って行きました。本当に世界は不思議です。

この不耕起栽培という考え方が面白いです。土は耕すのが良いと思っていたのですが、耕さすと水はけが良い分、頻繁に水をやらなければいけなくなり、アーティスト業のため長期不在の時期がある我々には、不向きらしい。そして、耕さないと、ゆっくりではあるが、自分の力で根を張りながら、勝手に耕してくれる上に、土の保湿力が維持されるので、それほど水をやらなくても育つ、というのです。

で、同じ場所で同じ品種ばかりを工場生産のように育てていくと、どんどん土がやせてしまい、肥料をどんどんに投入しないと、育たなくなるし、害虫が寄ってきて、農薬がなければ育たなくなる。ところが、コンパニオンプランツと言って、多品種をうまく混在させると、害虫は来ないので、農薬は不要になり、連作を避けてローテーションしながら育てると、あまり肥料を投入しなくても、うまく栄養が循環するサイクルを作れる。その結果、土はやせていかずに、最小限のケアで大丈夫らしい。

ということで、その方式で畑を始めてみました。土に触っているだけで楽しいですね。

で、不耕起栽培とアーツマネジメントについて、考えさせられました。様々な芸術支援の活動は、本当に有り難いというのは、言うまでもないのですが、同じ場所で同じ品種ばかり育てると、土が痩せてくるようなケースも多々あるな、と思いました。同じアーティストに、助成金(=肥料)を投入し、連作させ続けて、最初に持っていたエネルギーが弱まってしまい、痩せていってしまう。また、種(=若手アーティスト)が育ちやすい環境を耕していった結果、新人が短時間で育つ反面、自分の力で根を張っていく逞しさに欠けてしまうのではないか、という疑問。

そして、不景気のため、予算削減や助成金の減少でアートの氷河期が訪れた時に、水不足で肥料も十分に投入できない状況でも、アートが育ち続ける状況をどう実現できるか?それが、現代のアーツマネジメントの最大の課題だと思うのです。そのためのヒントは、不耕起栽培や自然農法にいっぱいあると思います。

1)連作を避けローテーションする。
2)同じ種類の作物ばかりを育てずに、敢えて違った作物を共存させる。
3)共存させる相性を相殺しない組み合わせにする。
4)耕さずに、自ら根を張る状況を準備する。

1)については、アーティストを土と考えれば、肥料(=助成金)を投入しながら、一つの品種ばかり(=新作)を次々に作り続けさせるというのは、いずれ土が痩せてしまうわけです。例えば、以下のようなローテーションをしていても、アーティストの創造力は消費されることも枯渇することもなく、自然に循環していきます。

例1
美術館でワークショップをする→ワークショップの内容をもとにピアノ曲をつくる→ピアノ曲を演奏する→このピアノ曲でダンス作品を作ってもらいダンス公演をする

例2
お年寄りとの音楽ワークショップ→ワークショップの映像を編集→編集した映像に合わせて作曲→作曲した曲を演奏→演奏した曲をアレンジ


2)、3)のコンパニオンプランツの共生の仕方こそ、コーディネーターの腕の見せどころであり、現代のアーツマネジメントの最重要研究課題の一つだと思います。単に異種格闘技のように異なる種類をコラボレーションさせ、同居させようとしても、相殺してしまうケースがたくさんあります。コンテンポラリーダンスのダンサーと伝統舞踊の舞踊家をただ同居させても、そこで、見事な相互作用は起きずに、双方が苦しんで枯れているケースを、ぼくは何度も目撃しました。創造的な芸術家と熱意ある教育者が協力しようと話し合いをしながら、平行線を辿り、折衷案のような企画で、お互い不満足なアートワークショップなども、数多くあります。ところが、その一方で、異業種の組み合わせが、驚くべき相互作用を示すケースもあるのです。それは、お互いの歩み寄りの努力とかだけではなく、相性による部分が大きいのですが、この点に関して、自覚的な研究がまだまだ遅れていると思います。ワークショップ・コーディネーターの吉野さつきさんは、こうした分野の先駆けであり、異業種の組み合わせを直感で結びつける独特の感性を持つ天才です。ご自身のお仕事を、板挟みアートと形容されたことがあります。今のところ、このようなコーディネートは、彼女のような天才のみが成功し、多くの凡人が真似をして失敗する、というケースをこの10年間目撃し続けてきました。天才は感性で行いますが、こうした実例を丁寧に分析し研究していけば、ある程度、理論化でき方向づけられるはずで、それこそが2010年代の最も大きな芸術支援の柱になるはずです。決して多くない文化予算を最大限に効率よく活用するために、本当に必要な研究分野だと、ぼくは思います。

そして、4)です。若手が、すぐに発芽し生育できる環境整備をするのではなく、ある程度、自力で根を張って育っていく状況を、どうやってつくるか、です。肥料を与え過ぎたり、水を与え過ぎるのでなく。しかし、完全に放置した結果、全く発芽しないのでは、意味がありません。スター待望で、ちょっとでも芽が出ると、肥料を与え、光を当て、無理に生長させようとする焦る気持ちを捨てないとダメだと思います。大器晩成です。芽が出てから、ゆっくり自分の力で育っていくのを冷ややかに放置しておく。そういう意味では、今、脚光を浴びている若手アーティスト達とは全然別な場所で、放置され自力で着実に根を張ろうとしている若手アーティスト達が、どこかに潜んでいることに、ぼくは期待しています。きっと間もなく力強く伸びてきます。そんな土地をむやみに耕さず、必要最小限だけのサポートと環境整備をしていく。そんなアーツマネジメントが始まることを、ぼくは心底待っているのだなぁ、と不耕起栽培をしながら思いました。