野村誠の作曲日記

作曲家の日記です。ちなみに、野村誠のホームページは、こちらhttp://www.makotonomura.net/

ジャワの小学校

 トランス・ジョグジャ(バス)に乗って、マングナン小学校へ向かう。ジョグジャの芸大に行くバスは20円で、おんぼろで、停留所もなく、降りたい場所で降りるのだが、トランス・ジョグジャは30円で、エアコン完備で、停留所がある高級バス。でも、タクシーに乗ると400円ほどする距離なので、お得ではある。
 バス停を降りると、国道の横断歩道を渡る。信号がないので、なかなか車やバイクの流れが途切れないが、なんとか渡る。
 国道沿いに歩く。国道には歩道がないので、すぐ近くをバイクや車が走るので、道の隅を歩きながら進む。強い日差しの中、15分ほど行くと、小学校の小さな看板がある。そこを、脇道にそれると、遠くから子どもの声が聞こえてきた。声のする方に歩いて行くと、どうやら小学校らしき場所に出る。校門があったり、校庭があったりするのではなく、小道の周辺の何ケ所かが小学校といった感じ。
 校長先生が、人懐っこい顔で、お話をしてくる。日本と同じ6歳〜12歳。全部で150人ほどの生徒がいるらしい。校長先生は、こっちで子どもが遊んでいるよ、とぼくを引き連れていく。すると、子どもが、インドネシア版の「かごめかごめ」のような遊びCublak-cublak Suwengをしていた(かがんで目をふさぐ子どもの上に、他の子どもが手を置き、その上を歌に合わせて石を回す。どこかで誰かが石をつかんであげる。石をとった子を当てる)。歌の歌詞を教わる。
 音楽のダルー先生が歌詞を正確に覚えていない、と歌の本を持って来る。本から歌詞を書き写す。言葉はジャワ語なので、意味は全く分からないが、言葉のリズムは良い。メロディーも数字譜で載っているので、写す(なんと、ペロッグ・ヌム調と書いてある)。子どもの歌の本には、全ての曲が、ペロッグかスレンドロと書いてある。で、その楽譜に従ってメロディーを覚えたら、子どもがやって来て、歌ってくれた。本のメロディーと全く違うではないか!これは、先日、パルチアント(中学校の先生)と会った時に、教えてもらったメロディーと似ている(メモを見たら、その曲もCublak-cublak Suwengだった)。でも、パルチアントのメロディーとも違う。こういう口頭伝承の歌は、いろいろ違ってくるものだ。今後、いろいろなジャワ人にメロディーを教わってみようと思う。
 アメリカ人のリンという女性も、見学に来ている。ダルー先生の授業には、3人で行く。10歳くらいの子ども20人ほど。机が、前を向いていたり、4つの机で班を形成しているようになっていたりする。統一感なし。ダルー先生のアイディアで、みんなでCublak-cublak Suwengを歌うところから授業がスタート。そして、途中で楽器が加わる。楽器と言っても、ペットボトルや水のタンクで作った太鼓、それに、ギターが2台、小さなハンドドラムが一個。日本のような学校教育用にメイカーが楽器を開発し売りつけるような状況とは、程遠い。そもそも予算はなさそうだ。
 自己紹介をして、鍵盤ハーモニカの演奏をする。そして、今日は、歌を作ってみようと提案し、ダルー先生についての歌を作ることに。歌詞をみんなと考える。こんな歌ができた。

Pak Ndaru pintar main musik
Sering pakai baju hitam
mempunyai rambat panjang
Pak Ndaru punya tahi lalat
Sering naik motor hijau
karena rumahnya jauh

意味は、だいたいこんな感じ。

ダルー先生は音楽の天才
よく、黒いシャツを着ていて
長い髪をもっている
ダルー先生には、ほくろがある
よく緑のバイクに乗っている
だって、家が遠いから

この歌を一緒に歌って、いろいろ質問されて、授業はおしまい。休憩時間は、道路で子どもたちが遊んでいた。あ、道が校庭なんだ。台の上にアクア(売っている小分けの水)10個でピラミッドを作り(4個+3個+2個+1個)、少し離れたところからボールを投げて、何個一度に倒せるか、という立体ボーリングのようなゲーム。子どもの遊びは、手近な物で発明する。こうした発明と接触するために、ぼくはインドネシアの小学校に来るのだ。
 休憩後は、別のクラス。こちらは6年生。自己紹介と鍵盤ハーモニカの演奏は、さっきのクラスと同様に。鍵盤ハーモニカの演奏に、アンコールがかかり、再度演奏。どうして、そんな風に演奏できるのか、他、数々の質問を浴びせかけられる。インドネシア語の語学力の問題で、質問の意味もなかなか分からず、答えも片言で四苦八苦。
 こちらのクラスは、好きな歌の歌詞を書き、なぜその歌が好きなのかを書く、という課題。課題を紙に書きながら、何人もの子どもたちが机を無意識に叩く。机を叩くリズムがとても良い。このクラスの子どもたちと机を叩く音楽をしたい、と思った。
 2週に一度のペースで通い、ここならではの音楽を作っていけないか、模索してみようと思う。
 夜は、東京の大学から視察に来られている方々と会食し、アジアのネットワークづくりに関して、かなりポジティブにお話ができた。