野村誠の作曲日記

作曲家の日記です。ちなみに、野村誠のホームページは、こちらhttp://www.makotonomura.net/

ホエールトーン・オペラ第3幕

イギリスに来て10日目ですが、ぼくがいる場所では、まだ一度も雨が降っていません。イギリスと言えば、雨なのですが、良い天気が続いています。





というわけで、Hugh Nankivell野村誠の「ホエールトーン・オペラ」第3幕です。昨日までは、小学生でしたが、今日は、ティーンエイジの音楽を専門にする若者たちです。つまり、South West Music Schoolからの9人と、The Sage Gateshead Young Musicians' Programmeからの7人。

今日、初めて出会って、19:00には、コンサートをする。こういう発想は、ヒューです。つまり、採れたてのフレッシュな野菜を、その場で食べるのが一番美味しいとか、釣ってすぐの魚をその場で食べるように、できたての音楽をその場で味わってもらうのが、最高のおもてなしだ、という考えです。

これは、それぞれの人の個性や能力を最大限に肯定する立場にいるから、できることだと思います。実際、16人の若者は、非常に良いな、と思いましたし、面白い音楽が立ち上がってきました。

と同時に、ぼくは、彼らの才能を最大限に肯定する立場にはいるのですが、短時間でやると、みんな、それなりに、自分の知っている範囲内から、それほど遠くには冒険をしないので、それだけでは面白くないな、と思っていたりするのです。だから、ぼくは、異なったセンスを持つ人が、短時間でさっとコラボレーションするよりは、時間をかけて、徐々に相互作用が起こって、その結果、それぞれの知っている範囲内から、逸脱していけること、が好きなようです。

ところが、こうした短時間でぱっと作ることも、積み重ねて蓄積されてくると、積み重なって、気づいてみると、いつの間にか逸脱していたり、自分の殻を破れていたりする。だから、ヒューのやっているアプローチは、一見、すごく短い時間で結果を出そうとしているようで、実は、ものすごく長い目で見ているような気もします。

このaccumulation of instant musicについて考えると、実は、2004年に「ホエールトーン・オペラ」開始して、2005年に完成したと思っていましたが、未だに、作曲の途上なのかもしれません。こうしたコンサートやワークショップも、作曲のプロセスで、作品の長所を伸ばしつつ、欠点を改善しているような気がします。こうしたことを続けていくうちに、

In Whaletone Opera nothing can be wrong.

という考え方が、定着してきました。

もとの曲をやらずに、新たに曲を作っても良いが、原曲と全く無関係なものを作ってはいけない

という考えも定着してきました。だから、「ホエールトーン・オペラ」は、常にUpdateされていきます。

今日は、音楽的な面については、学生達にかなり委ねましたが、できるだけ演技として、劇として成立するように、ということを、意識してやりました。というのは、劇を意識することで、音楽自体が変わるのですが、それは、音楽の論理で考えても、なかなか起こらないことです。逆に、演じることを意識し過ぎて、音楽の演奏がダメになるケースもあって、そういうところは、演じていることを意識せずに、ただ演奏に専念していれば、良い演技になったりします。ここの部分は、バランスなのですが、いろいろ面白いな、と思いました。ただ、こうした部分も含めて、いつか、「ホエールトーン・オペラ」を演出家と組んで上演してみたい、とは思います。

今日のメンバーとは、10月27日に、ニューカッスルでも上演するので、次までに作品が、どう熟成されるかも楽しみです。

本日の曲目

1)殿様のラメント
2)セラピー1(女声ヴォーカル4人)
3)セラピー2(マリンバデュオ+チェレスタ
4)セラピー3(バグパイプ+リコーダー+サックス)
5)セラピー4(チェロ、コントラバスエレキギター
6)黒と白
7)Power of Love
8)殿様が治った(笑い+フルートソロ)
9)仮面舞踏会
10)日本からの悪い知らせ(野村+ヒュー)
11)頼りない船乗り達(歌)
12)船旅(マリンバ+パーカッション+チェロ+エレキギター:D,E,F#,A,B♭)