野村誠の作曲日記

作曲家の日記です。ちなみに、野村誠のホームページは、こちらhttp://www.makotonomura.net/

コミュニケーション可能と不可能について

鍵盤ハーモニカ・オーケストラ「P−ブロッ」のコンサート(8月6日@門仲天井ホール)のために作曲した新曲について。

この作品は、実は、1990年に作曲した「組曲」という曲とも非常に似ています。当時、ぼくは、ヘッドフォンをして、ウォークマンを聴きながら、声を発する曲を作り、京都パフォーミングアーツセンター、京都市立芸術大学ギャラリー、関西日仏学館、京都精華大学春秋館などで、この作品を、発表しました。

5人くらいのパフォーマーが、同じカセットテープを聴きながら、聞こえた音を声で模倣する、という演奏をしているのですが、演奏者同士が、何か、やりとりしながら、曲が展開していくように聞こえます。ところが、実は、ヘッドフォンで聴いている音楽のボリュームが大きいため、他の演奏者の音は聞こえず、相互にコミュニケーションはないのです。しかし、コミュニケートしているかのような偶発的なやりとりが聞こえたりするのです。

当時は、即興演奏やアンサンブルなどで、お互いの音を聴きながらではなく、敢えてお互いの音が聞こえない状態を作った上で、コミュニケーションが不可能な状態で、どんな音の重なり合いが生み出されるか、について、模索していたのでした。「聴く」ことを重視した即興が多くある中で、敢えて、「聴かない(=聴き合わない)」を選択したのでした。

今回の新曲は、離れて演奏しますし、ストップウォッチを見ながら、演奏します。そういう意味では、「組曲」にも似ていて、20年前の作品に1周して戻ったような感じもあるのです。お互いの音が全く聞こえないわけではないので、聴きながら反応し合うところも出てくる。「聴く」即興でもなければ、「聴かない」即興でもない、その中間。少しは聴くけど、あまり聞こえないという半コミュニケーションの状態でのアンサンブル。どんな唸りが生まれてくるのか、非常に楽しみです。