野村誠の作曲日記

作曲家の日記です。ちなみに、野村誠のホームページは、こちらhttp://www.makotonomura.net/

ジョグジャ鍵ハモセッション

 芸大の作曲科の学生であるギギーが鍵盤ハーモニカを持って訪ねて来る。ジョグジャで初の鍵盤ハーモニカ奏者、若干20歳。まずは、2台の鍵ハモで、デュオの即興を開始。何の取り決めもなく始めたので、探り合いながら始まるが、彼が色々な和音を吹きながらメロディーを吹くので、ぼくは、それに合わせて、メロディーを吹く。これまで一人でしか演奏したことがなかったので、メロディーと和音を同時に吹いていたギギーは、しばらくするうちに、それを二人に分担すれば良いと考えたのか、和音だけをやったり、メロディーだけをやったりする柔軟さを持っていた。キーやコードも拍子も決めていないので、音を聴きながら探りながら、立ち上がってくる。即興。
 良い感じで吹き終えると、すぐに、「今度は短調でやろう」と彼が提案してきた。どうぞお先にと勧めると、彼から吹き始める。マイナー系でやっているうちに、彼はピアソラが好きだったことを思い出し、少しピアソラ風の伴奏などもして、様子をうかがってみたりした。
 2曲やって味をしめたのか、「今度はミニマル」と提案してきた。インドネシアに鍵ハモ奏者は、他にいないから、初のアンサンブル、次々にやってみたいのだろう。なんちゃってミニマル・ミュージックだが、それをやりながら、彼の可能性を探るべき、いろいろ刺激してみると、それに応じて、色んな顔を見せてくれる。いやいや、なかなか引き出しも多い、この人面白いではないか。
 さすがに、気が引けたのか、「次は、あなたが提案してみて」と言ってきたので、ロングトーンでゆっくりとした演奏をすることに。ゆっくりと音を持続していると、町で物を売る人達の鳴らす音が、音楽の一部として融合してくることだ。ジャワの路上では、物を売り歩く人がいっぱいいる。かつて、日本の路上で豆腐屋のラッパが聞こえていたように。
 4通りやって、もう十分かな、と一息つこうとしたが、彼の手が、まだやりたそうにしている。それに応じるように、もう一曲。再び、何も決めごとなしに始めた。今度は敢えて、無調でフリーリズムにしてみる。彼は、ジョグジャカルタ現代音楽祭にも毎年通っているらしく、無調の即興にも、自然に応じてくる。そうやっているうちに、鍵盤をカタカタ鳴らすノイズの演奏や、ホースの蛇腹を擦る演奏などになった。これは、ぼくが誘導したというより、彼から始めた部分も大きい。彼は、こうした特殊奏法の演奏も、楽しんでいる。そうした中から、ファ#の一音だけの即興にうつり、ファ#とシの2音だけの即興にうつり、それを経て、鍵盤の演奏に回帰していった。
 本日のセッションは、以上の5曲。二人でのコンサートをしよう。また、来週、2回目のセッションをすることにした。