野村誠の作曲日記

作曲家の日記です。ちなみに、野村誠のホームページは、こちらhttp://www.makotonomura.net/

ロンドンの島袋道浩 段ボールの聖地、そしてイギリスのブラジル


島袋道浩のロンドンでのプロジェクトを見た。
Aldgate Eastの改装中のWhitechapel Art Galleryの近くの数カ所でやっているプロジェクト。7月17日〜9月7日まで

http://www.whitechapel.org/content.php?page_id=4527

段ボール箱の聖地へようこそ」と島袋。ストリート・マーケットが終わったばかりの路上には、数々の段ボールとゴミが散在していて、それを清掃業者の人が、大規模に清掃している。毎日、こうやって大清掃が行われるらしい。島袋の一つ目の作品は、段ボールの作品だった。段ボールが自分の友人の段ボールを紹介していく作品。段ボールから、ギャラリーの壁にプロジェクターで投影されているのは、さっき路上で見た数々の段ボールたち。「ぼくは段ボール、これから、ぼくの友人を紹介します。」と言う声が、箱の中から聞こえてくる。次々に様々な段ボールの画像が壁に投射されていく。なかなか笑いを誘うビデオで、たくさん笑わせてもらい、半分はお笑いジャンルでもあるのですが、それぞれの写真がビジュアルにとても美しいので、美術作品です。

バングラデッシュの子どもの学校の壁面に、島袋ワークショップの痕跡が残っていました。

そして、ブラジル料理も出すブラジル人カフェを、島袋は展示場所の一つに選んでいて、ブラジルにある日本+ブラジルのお酒をメニューに加えたり、店のポスターを作ったり、そして、自身のブラジルにまつわる作品を展示したりと、ここは、島袋のブラジル展になっています。今、豊田でも島袋はブラジルをテーマにした展覧会に出展していますが、島袋オーガナイズのブラジル展でブラジル料理とブラジルのコーラを飲むことができたのは、とてもよい体験でした。

2001年に東京都現代美術館で発表したタコに東京観光をプレゼントする作品が、ブラジルリミックス版で登場していました。ブラジルでは、文字を読めない人が多いらしく、この作品をブラジルで展示する時に、字幕をつけるのではなく、現地のミュージシャンにその内容を歌詞にして即興で歌ってもらうのです。パンデイロと歌だけのデュオというシンプルな編成で、力強い歌声。これは、豊田市美術館でも見られるはずなので、日本にいる方も、ぜひ、ご覧ください。

ブラジルについて、もう一言。1993年のクリスマスに、島袋とぼくは京都と神戸で路上演奏をした。その後、クリスマスが過ぎると、せっかく練習したクリスマスソングは演奏できなくなる。でも、島袋は、夏になってもクリスマスソングを演奏した。「南半球だったら、クリスマスって夏やもんなぁ。」
そして、島袋は、夏にサンタの格好をして、須磨の海岸に立った。「南半球のクリスマス」という作品。地球の裏側に思いを飛ばす。ブラジルは地球の裏側で、それは遠いけど近く、近いけど遠い。月や星は見えるのに、そこまで行けないのに、ブラジルは見えないのに、ブラジルには行けてしまう。かつて神戸から、ブラジルに多くの日本人が移民した。
ブラジルに縁のある詩人の吉増剛造さんと出会ったのも、1994年の夏だった。吉増さんに会った直後に、ぼくは別の地球の裏側のヨークに住んだし、その数ヶ月後には、地球の裏側の神戸で大震災があり、当時はスカイプもなかったけど、ヨークでやった「神戸のためのコンサート」を神戸のラジオ局に電話で送ったし、当時まだ普及していなかった携帯電話で日本の深夜3時に神戸の海岸で熱唱する島袋の声は、イギリスの中学生と共演をした。そして、島袋は20世紀の終わりにブラジルに滞在。地球の裏側というメタファーとして語られていたブラジルを表側で体験していく。
そうした島袋のブラジル体験を味わう上では、7月17日に行われた島袋レクチャーも聴ければ言うことはないのですが、そして、8月16日に豊田で行われる島袋レクチャーを聴ければいいのでしょうが、ぼくはぼくで、別の場所から、島袋のブラジル体験を想像する楽しみを味わっているのです。