野村誠の作曲日記

作曲家の日記です。ちなみに、野村誠のホームページは、こちらhttp://www.makotonomura.net/

しでかすからだ

京都に戻って、Dance & Peopleの公演を見に来ました。
例によって、エイブルアート・オンステージです。

こちら、5月15日〆切ですが、是非、申し込んでください。最終的に書類選考が通ると、2次選考が東京で開かれますが、その往復交通費が支給されますから、2次選考で落ちても、東京に遊びに来られますよ。また、2次選考は、4組くらいずつをまとめて、1時間くらいのディスカッションをしますが、いわゆる面接というよりも、ぼくたち実行委員と応募者で、色々な可能性についてじっくり語り合うシンポジウムのような感じにしていますので、2次選考で落ちてしまう場合でも、十分貴重な体験ができるような場にしようと考えています。だから、今年応募して今年採用にならないとしても、応募してみる価値はいっぱいあると思うので、興味のある人や、考えがまとまりかけているけど、まとまりかけていない人も、是非、応募してください。

昨年の2次選考で、「こわれものの祭典」などは、この申請書では通らないけど、もう1回書き直して応募したらどうか、と言った上で、しかも、この申請金額ではこれだけのことしか実現できないけれど、もっと申請金額を多くして、こうやって応募したらどうか、と親切に、ぼくたちは面接で申請金額を多くして書き直す提案をして、その上で2次選考の後、書き直して応募した書類で採用されました。

そういう親切なプロジェクトなので、とにかく皆さん応募してください。

ということで、今日の公演ですが、6つのソロダンスでした。ソロにすることで、一人一人の個性をしっかり出すということが主眼だったのだと、思います。

五島智子さんの前説が続いている途中から、4人のダンサーによる「オープニングダンス」があったのですが、これが良かったのです。3人のユニゾンと、1人(森川万葉)が自由なんです。ユニゾンの存在があることにより、それと対比されて森川さんのダンスが浮き立つのです。ジャンベの音楽も良かった。今日はソロと
聞いていたのに、ソロじゃないのか、この後に一体何が起こるのだろう?という期待感を持った。

その後、「白川努 真実の叫びと、心のダンスをあなたに」とアナウンスがあり、白川さんのMC。トークが非常にうまく、会場の笑いを誘い出す。観客とのコミュニケーションが非常にうまいのと、喜びに満ち溢れたダンスは、見ていて心地いい。

続いて、吉田一光「直美の夢」。この人は、2年前の公演で社交ダンスを踊っていた人だが、今日の踊りは舞踏だった。2年続けると、うまくなるんだなぁ、と思った。2年前は、いわゆるダンサーとの共演で存在が輝いていた。ぼくのようなダンスの専門家じゃない人間が見ると、いわゆる舞踏ダンサーと一緒に踊ってもらえると、吉田さんの舞踏のユニークさも、舞踏ダンサーの舞踏の特色が分かるけど、こうやってソロで踊られると、逆に、どこが個性でどこが様式なのかが、素人には分かりにくいんだなぁ。うまくなったし、表現力も増しているけれど、逆に冷めて見てしまいました。山本さんの音楽はいいバランスでした。

前半の最後は、森川万葉さんの「いつも同じ/いつも違う」。森川さんの踊りは、オープニングダンスが素晴らしかった。ここでは、音楽家のウォン・ジクスーさんとのデュオ。ウォンさんの動きや存在に目がいってしまい、森川さんのダンスといいバランスで見ることができませんでした。ウォンさんが森川さんに関わろうとしても、森川さんにはぐらかされてしまう感じがします。森川さんと無関係に3人でユニゾンダンスをしていた時、森川さんのダンスと3人が見事に調和したので、ひょっとしたら、ウォンさんが森川さんを全く無視して、自分のライブをしていたら、2人にとんでもない調和が生まれたのかもしれない、と思いました。

休憩後は、藤井陽子さんが色々なところに行ってダンスをしたドキュメンタリー映像「ダンスの旅Myダンス Myさくらももこ」。この藤井さんは、2年前のコラボシアターフェスティバルでは、30分近いステージを卓袱台を囲んで二人でやった名優です。その時は、真っ暗な中で着物に着替えたり・・・。声がいいし、その存在の仕方がいい。あの時、彼女がしゃべること、着替えること、座っていること、そうしたことが全てダンスなんだと思いました。それは、構成をしたエメ・スズキさんの考え方によるところも多いのだと思います。映像を見て、すごく藤井さんはダンスが好きなのだなぁということ、ダンスを通して色々な人と関わりたいのだ、と感じました。それで言うと、多分、今日映像で見たダンスは、狭い意味でのダンスのみが切り取られていたような気がします。お茶を飲むのもダンスであり、おしゃべりするのもダンスである、と感じさせてくれる存在が藤井さんなので、「Myさくらももこ」というタイトルをつけた藤井さんが、日常生活の中の全てがダンスであるような、生きることが全部ダンスになってしまうような、それが藤井さんのダンスのような気がしたのです。だから、映像の中に、電車に乗っている場面もあってもいいし、電車の椅子に座りながら、ちょっと動いていることがダンスになっちゃうような、なんだか分かりませんが、そういう可能性を秘めていると思います。

澤田尚美さんの「いま、やるっきゃない」は、寝転がって、足のダンスなのですが、これは、非常に繊細でかつ微かな動きの中に力強さがあるダンスだったのです。一人の音楽家として、このダンスの音楽をやってみたいと思いました。多分、音楽によって、ダンスがまた全然違って見えてくる。静かな音楽と、騒々しい音楽、速い音楽と遅い音楽、音楽が変わると全く違ったダンスに見える。極端に言えば、3人の音楽家が一人ずつ彼女のソロダンスとセッションをしたら、全く違ったダンスの世界が見えるのではないか。そんな気がしました。

最後の戎敦子さんの「どこにでもおじゃまします」というダンスは、とにかく勢いがあって、エネルギーがいっぱいあって、コントロールできないでいるダンサーでした。ぼくは19歳の山下残くんと初めてやったパフォーマンスの時の残くんを思い出しました。すごいエネルギーで、すがすがしい。多分、お寺だったり、お客さんが込み合っていたりして、客中に入っていったり、仏様に突っ込んでいったりしないように、コントロールしていたのかもしれませんが、もっとメチャクチャやっていけるくらい弾けまくってください。

公演を全部見た印象としては、やっぱりソロで見せるのは力量がいるので、大変だなぁ、ということ。でも、ソロだと10分くらいの出番に全エネルギーを注げるので、逆に良い緊張感が出せるかなぁ。ただ、見ている側としては、ずっと緊張して見続けると疲れるので、能の中の狂言のようなところも欲しいのですが、一番リラックスして見れる白井さんがトップだったので、いわば、最初に狂言を見た後にずっと能を見た感じで、1番目で緊張して見た後、2〜6を緊張して集中して見たわけです。白井さんは途中で登場の方が、全体の構成としてはいいのでは、と思いました。

めくるめく紙芝居の制作スタッフや狛犬にほうきぼしのマキさんなどがサポートスタッフにいて、関西では、エイブルアート・オンステージに参加した団体同士の交流がうまれているのが、とてもいいと思いました。それ以外にも、音遊びの会の沼田さん(博士論文を出して博士になって、現在は岡山の大学に非常勤で音楽療法を教えているらしい)、さあトーマスの中川真さん、たんぽぽの家の岡部さんや森下さん、くらっぷの演出家・俳優のもりながさん、くらっぷのファウストに出ていた男の子、などなど・・・。こうやって、いろいろ影響を及ぼしあっていく状況が作れるのはいいなぁ。