野村誠の作曲日記

作曲家の日記です。ちなみに、野村誠のホームページは、こちらhttp://www.makotonomura.net/

あいのてMA

NHKにて、「あいのて」の第1回、第2回のMA。MAというのは、編集できた映像に完成版の音をトラックダウンする作業のことらしく、この後、最後にテロップなどを入れて完成になるらしく、その一段階前。

やってみて思ったのは、野村幸弘さんとの映像の作り方と同じパターン。幸弘さんが編集したものに対して、最後にぼくがそれを見て、音に関するチェックを入れたり、このシーンはもう少し長い方がいいのでは、などと意見をしたりする。今回の場合、音しかいじれないので、映像に関しては、ぼくはタッチできなかった。

この番組の面白いところは、音の番組なので、いわゆる効果音みたいな音は極力避けないと音の存在がぼやけてしまう。あと、雑音みたいな音を敢えてちゃんと聞かせたりする。それから、録音では微かに聞こえていたのに、わざと音量をしぼって、聴こえにくくするシーンも作った。例えば、机上のそろばんの玉が振動する音をみんなが聴いているシーンでは、音量のレベルを下げてみた。音が聴こえない方が、視聴者もその聴こえない音を聴こうとして一生懸命耳を澄ます。ひょっとしたら、そろばんの音は聴こえないけれど、その結果、部屋の冷蔵庫の音が聴こえてくる瞬間になるかもしれない。空飛ぶ飛行機の音が聴こえてくるかもしれないし、風の音が聴こえてくるかもしれないし、空耳がするかもしれない。

白井剛さんに踊ってもらった「ワニバレエ」の映像も初めて見た。この「ワニバレエ」は、この番組の中では異質な存在だ。メロディーもあるし振りもある。この番組の中では、最も「歌って踊ろんぱ」に近い存在。とは言え、全く違うけれど。何が違うと言って、子どもたちが作った歌であること。

この白井くんのダンスなのだけど、子どもたちの考えた振付をそのまま白井君に踊ってもらうつもりでいたのだが、どこでどういうやりとりがあったのか、白井君の振付と子どもの振付がミックスしてしまっている。ぼくとしては、子どもの単純な振付をそのまま白井君のようなコンテンポラリーなダンサーが踊るとか、白井君のコンテンポラリーな振付を子どもが踊るを、それぞれ別々にやった方がコンセプトが明解だと思うのだが、ある意味、この両者の交じり合ったダンスは、「ワニバレエ」のプレリュード、「ワニバレエ」誕生前夜という印象だった。この「ワニバレエ」、どんな反響があるのだろう?次は白井くんとカナちゃんと子どもたちで、「ワニバレエ」を踊り続けて、その結果、定着した踊りをベースに撮影してみたい。

女の子二人、演技もいいし、素になって音を楽しんでいるところもいい。ぼくらミュージシャンの役割としては、この演技の部分から素の部分に乗り越えられるくらい素敵な音をいっぱい提供することだと思う。

番組は通してみたけど、初回から相当いいです。片岡さんは、ミュージシャンとしてのオーラを全然発していないで、片岡さんらしい面白オーラを発している。仕草が相当面白いし、体形も面白いし衣装ともマッチしている。尾引さんは、常に倍音にこだわって、ボウルをミュートする時でも、こだわりの音の響きを追求している。その態度が真直ぐでよい。そうなると、野村は、この画面の中でも、常にクリエイティブに創造し続けている存在として、いるべきだと思う。そこが、不十分だったと反省。

つまり、ぼくには作曲家の演奏しかできないし、作曲家の演奏をすべきなんだと思う。ぼくはいつも超高速回転で頭の中で考えを巡らせている、あのワークショップの現場で作曲しているときのような風に存在すべきなんだと思う。生きている作曲家という存在として。と、番組監修者として、一出演者の野村誠にアドバイスの仕方を考えたので、次は、もっといい演奏をしてくれるだろうな、と思った。

とにかく、野村の場合、存在そのものが音楽であり作曲である、と視聴者に印象づけるような存在でいて欲しい。それは、つまり普段通りでいいのだが、普段と違って言葉を封じられているので、ボディランゲージでもっと伝えていく必要がある。これから、日常でもボディランゲージで語っていくようにしよう。それから、野村は、普段顔をよく触るし、その辺のものをよく叩いたりする。ところが、本番ではメイクが落ちないように顔を触らないようにして、その上、むやみに雑音を鳴らさないようにしてしまったため、お行儀よくしすぎた感じもある。「あいのてさん」は、音出しの国から来た妖精なんだから、もっと普通じゃなくって、つまりぼくらの普通にしていていいと思った。でも、メイクは落ちないほうがいいかもしれないけど。

番組を通して見ると、やっぱり一本貫かれている感じで、最後のエンディング曲が泣けてきました。

初回は、4月12日9:15から、NHK教育テレビで放送です。是非、皆さん見て下さい。