野村誠の作曲日記

作曲家の日記です。ちなみに、野村誠のホームページは、こちらhttp://www.makotonomura.net/

アートサーカスを作曲

横浜みなとみらいホールでのワークショップ、「アートサーカスを作曲しよう」(こどもプロジェクト)。講師は、野村誠、石川泰(作曲家)、倉品淳子(俳優)。小中学生20名。応募は40名ほどあって、抽選で選ばれたメンバー。人気のプログラムだ。
午前中は、みなとみらいホールのレセプションルーム、午後は横浜トリエンナーレ会場で。
今日、トリエンナーレ会場前がマラソンのため、石川さんの楽器を車で搬入ができないため、昨日のうちに楽器をを全てトリエンナーレ会場に搬入してしまった。つまり、午前中のワークショップでは、楽器が使えない。これは、予定外の事態。
そこで、発想を変えて、午前中は楽器で音楽をする、というよりも、「アートサーカス」という言葉のイメージを掘り下げた。現代の小中学生はサーカスというものを知っているのだろうか?いろいろ聞いてみると、意外に知っている。ゾウ、ライオン、安全ネット、サーカス団の団長、火の輪、人間ロケット、色んなイメージが出た。そこから発展して、「アートサーカス」について考えた。芸術っぽいサーカス、または、サーカスっぽい芸術。動物が綱渡りしながら絵を描いているとか、ピカソの絵の顔したピエロとか、てこの原理で成立する微妙なバランスの彫刻などなど。
途中で、倉品さんが世界的なサーカス団の団長を呼びに行った。すると、倉品さんとそっくりで、倉品さんと同じ服を着た「ロンパー」という団長がやって来て、サーカスのパフォーマンスをしてくれた。子どもたちのツッコミに「私は倉品さんではありません」と反論する団長。団長が帰って行くと、入れ替わりに倉品さんが帰って来た。倉品さんとロンパー団長は同一人物だろうか?もし、そうだとするならば、倉品さんは素晴らしい俳優だし、もし、そうでないとすると、倉品さんは随分とユニークな知り合いを次々と呼び出すところが面白い。
このワークショップで出てきたアイディアは、ぼくが弦楽四重奏として作品化し、3月22日に横浜みなとみらいホールで、松原勝也さん(ヴァイオリン)、鈴木理恵子さん(ヴァイオリン)、井野邊大輔さん(ヴィオラ)、安田謙一郎さん(チェロ)により初演される。今日はヴィオラの井野邊さんが、どうしてもワークショップの様子が見たいと、見学に来てくれた。井野邊さんはN響の奏者で、今晩N響の定期公演があるから午後のワークショップは見られないと残念がっていた。そもそも、夜に本番がある朝に、わざわざ横浜まで来てワークショップを見学してくれるというのが、嬉しい。しかも、楽器を持ってきていたのを石川さんが、「楽器をお持ちですよね」と目ざとく見つけ、せっかくなので演奏を子どもたちに聴かせていただけませんか、とおねだりしてしまったところ、突然の申し出にも関わらず、演奏を聞かせてくれた。サンサーンスの「白鳥」を弾いてくれた。演奏会という設定ではなく、しかもワークショップの途中での突然の演奏は、不思議な場の緊張感や微妙な居心地の空間で成立していた。その中で誠実に音を響かせていく井野邊さんの演奏に、ぼくはドキドキした。こどもたちもドキドキしただろう。井野邊さんは、このワークショップを非常に喜んでくれたみたいで、作っていくプロセスにもすごく興味を持ってくれて嬉しい。3月の演奏会が楽しみだ。
とにかく、午前中は音楽をするのではなく「アートサーカス」というキーワードを徹底した。みんな早く音楽がしたいという気持ちもあっただろうが、まずは我慢してサーカスに心をしっかり向けた。その上で、午後は、トリエンナーレ会場へ。もはや、「横浜トリエンナーレ」という現代美術展の会場に行くというより、「アートサーカス」という芸術っぽいサーカスを見に行く気持ちだ。そこで、午後は、まず子どもたち全員と楽器を鳴らしながら展覧会場を練り歩いた。気分はかなりサーカスだ。その後、倉品さんに頼んで、もう一度ロンパー団長を呼んできてもらってサーカスの心得を教えてもらい、それから子どもたちとサーカスの練り歩く曲を、どんな曲にするかを考えた。これが、弦楽四重奏のベースになる音楽になるだろう。この曲で、もう一度、会場内を練り歩いた。途中で筒男たちによる筒叩きパフォーマンスと共演したり、中庭でのフラダンスみたいな一座と共演したりして、練り歩き終了。
もう十分サーカス気分を味わった。最後には、丁寧に展示作品を見てみよう。でも、現代アートをどうやって作曲するか?そこで、各自で作品を見るというよりも、気に入った形を探す、という具体的な課題を考えた。気に入った形を無理矢理五線紙の上に書いてみる。それがどんな曲になるか、それをどう発展させるかは、来週のワークショップでしよう。また、そうやって気に入った形を探すという視点でこの展覧会を見たら、どんな形が出てくるのだろう?どんなふうに、この展覧会は見えるのだろう?
そんなこんなで、アートサーカスを作曲することが、一歩前進。五線紙の上に描かれた形からは、抽象的な無調や無拍節の音楽を連想したり、ジョン・ケージ的な偶然性の音楽をイメージするかもしれませんが、あくまでサーカスの音楽を作曲します。そこから、どうやってアートサーカスな曲になるかが、来週のワークショップでのぼくの腕の見せ所です。ちなみに、今日はぼくは自分の曲を全くプレゼンしなかったので、子どもたちはぼくが作曲家ということも、イメージできてないかもしれない。でも、いいんです。今日はサーカスについて考え感じる日。作曲をとことん深めるのは来週です!う〜〜〜ん、めちゃくちゃ楽しみ。すごい面白い曲ができますよ。きっと!!!