野村誠の作曲日記

作曲家の日記です。ちなみに、野村誠のホームページは、こちらhttp://www.makotonomura.net/

高嶺くんの出産&仙台のゾウカバ


大阪から飛行機で仙台へ。ヒューと二人。空港に着くと、えずこホールのリケンさんが迎えに来てくれる。仙台は寒い。3度だ。
「ヒューさんが来ると寒くなるんですよ。昨日までは暖かかったんですけど。」

で、仙台メディアテークへ。今日は展覧会のオープニングを見に行くことに。高嶺格くん、中原浩大さん、関口敦仁さんによる景観という展覧会。高嶺くんと仙台で会えて、明日はワークショップに遊びに来てもらうことになった。

高嶺くんの作品は、自分の奥さんの出産シーンの表情をとった映像作品、バンコクのワニ牧場のワニが群がる様子を撮った映像、それに先日やったというダンスの舞台オブジェの展示だった。

出産シーンの映像作品が、この展覧会の全てのような気がした。ぼくたち芸術家は、自分の作品の誕生には何度も立ち会ってきて、そして、自分自身が生みの苦しみを本当に味わってきている。それは、本当に苦しいこともあるけど、苦しくってもその誕生のすごさに立ち会うと、また創作に向かう。困難に立ち向かう。高嶺くんは、そうした創作、誕生の現場、ギリギリのところで生きてきている数少ない本気のアーティストだ。

そして、今回の展覧会には、困難な部分が見えなかった。もうダメだぁ〜〜、これじゃあ失敗だぁ〜〜、っていう部分を、壁にぶちあたって先に進めない部分、そこを突き抜けられなくっても、そこにぶち当たるところまででもいいから、見られれば、感動的だった気がする。地元の島、金華山をテーマに取り上げ、作家が滞在したり、ワークショップを行ったりしてから、この展覧会に到ったのらしいけど、そこでの困難が展示に出てこないのが、残念だと思った。産みの苦しみ、は、文字通りの誕生直前の高嶺君の映像作品の中でのみ見られた。そう考えた時に、ああ、人のことを言うのは簡単だけど、自分もそうだよな、って思った。ちゃんと困難にぶち当たって、しかも、ちゃんと困難にぶち当たった部分を見せていかなければいけないんだ、と思った。綺麗にまとめたり、ごまかしたりしないようにしよう、と自分に戒め。

展覧会場では、赤城のワークショップフォーラムのボランティアをしていた人にも会ったし、仙台で「ビーアイ」という子どもの居場所を作っている関口玲子さん(通称ゾウカバコさん「子どものためのワークショップ」という本の著者)などにも出会えた。ゾウカバさんは、今から30年くらい前に、いわゆる普通の主婦で母親をしていた時に、夫に突然先立たれ、そこからわけも分からず必死に生きてきた結果、子どものための塾でもない不思議な遊び場みたいなものを始め、その中で生きること全般を子どもたちと遊んできた人で、一緒に川の中に入っていったり、料理したり、絵を描いたり、悩んだり、けんかしたり、遊んだりすることをしてきた人。そして、そのうち、あなたのやってることはワークショップって言うらしいよ、と人から教わって、今にいたる人。だから、何かの方法を人から教わって実践しているのではなく、本当に自分の肌で体験しながら道を作ってきた人だ。
「こちら私が大好きな野村誠さん。日本で音楽のワークショップをする人で、彼の右に出る人はいません。」
ゾウカバさんは、ぼくを色んな人に紹介する。今日で彼女に会うのは3回目。一度目は浜松のエイブルアート・ワークショップ。2度目は、赤城のワークショップフォーラム。
「まこちゃん、今から一緒にご飯食べに行こうよ。」
ゾウカバさんに誘われて、素晴らしい日本食の店に連れて行ってもらう。このお店は、本当に美味しかった。その後は、ゾウカバさんと、彼女のところでスタッフをしているミヤちゃん、キョロちゃん、リケンさん、ヒューと楽しく語り合う。

今日の会話の中に、
「こんなことに税金を使っていいのか!」
という発言があった。ぼくは、すかさず、
「いいんです!でも、もっといい内容ができるはず!」
と答えた。公共の芸術事業に対して、それがどんなにつまらなくっても、「こんなことに税金を無駄使いしていいのか」、と言ってはいけない、とぼくは思った。例えば、小学校の授業内容が悪かった時に、「こんなことに税金を無駄使いしていいのか?」と言う人は、滅多にいない。教育にお金をかけるのは当たり前とした上で、その教育の内容を問題にする。ところが、芸術になると、内容を問題にすることと、その存在そのものの議論が、混同されてしまう。

ぼくは、どんな最低なコンサートや展覧会だったとしても、
「こんなことに税金を無駄使いしてもいいのか?」
と言う質問には、
「もちろん使っていい。」
と答えようと思う。それを大前提にした上で、もっと内容を良くすることを議論すべきだと思った。

ゾウカバさんたちは、金曜日のえずこのワークショップに来る、と言ってくれた。ゾウカバさんは、ぼくらの食事をご馳走してくれた。ご馳走さま。