野村誠の作曲日記

作曲家の日記です。ちなみに、野村誠のホームページは、こちらhttp://www.makotonomura.net/

カラダは表現する

今日も、京都女子大4回生のエミ、ポチ、しお(そして、遅れて)ミドリが、我が家にやって来た。今日の目的は、曲作りとカルタ大会。卒論を書くだけじゃ物足りなくって、第5章にオリジナル曲を作って載せちゃう、しかも、ビデオも撮る、というのを、〆切の2週間前に取り組むツワモノ達だ。それで、途中で息抜きにカルタ大会をしよう。

カラダでリズム合奏をする市販の「ボディパーカッション」の本に共感できない彼女たちは、いろんな表現、いろんな楽しみ、をやりたい。だから、ストレッチやヨガや護身術の動きも、動物のモノマネも、レクリエーションゲームも、何でも吸収、いっぱいカラダを動かし楽しみたいのだ。だから、みんなで柔軟体操を組み合わせて大いに遊んだりしながら、創作のタネは広がっていく。

2000年に小倉小学校で初めて、糸井登さん(現在は、平盛小学校教諭)と会った時のビデオを見た。4年も前のことなので、すっかり忘れていたが、そう言えば「ボディパーカッション」を教えて欲しいと言われて、出かけて行った。6年生3クラス一斉の授業だったので、一方的に演奏しただけのように記憶していたが、ビデオを見ると、時々、ぼくは問いかけたりしていて、実は意外に小学生から沢山のアイディアをもらっている。この授業は、ぼくが日本の小学校でやった2度目の授業だった(イギリスではあったし、放課後に希望者だけ集まる、という活動をしたことはあったけれど)。まだ2度目なのでなので、小学6年生というものをイメージできないため、子どものリアクション一つ一つに新鮮さを感じているので、活動がイキイキしている。また、かなり高度なことをやっていて、しかも、それを子どもたちが難なくこなしていく。6年生だと、これくらいという先入観がないのが、うまく作用していると思った。もし、この時、あと数回、小倉小学校で授業を続けたら、ぼくは何をしただろう?なんだか、凄かっただろうな、と思った。

糸井さんは、新聞記事でぼくのことを知り、直接電話をしてきた熱い先生だ。記事で紹介されたのは、片岡祐介さん、林加奈さんと「5歳児31人による」身体オーケストラの試み」。ぼくは、国立民族学博物館で行われた「カラダは表現する」に出演していた。この展覧会では、ステージを設け、ピエロやダンサー、サーカス芸人、音楽家など、様々なカラダの表現を紹介していたが、
「ここで紹介されているカラダは訓練されたカラダばかりだなぁ。訓練されていないカラダは何を表現するのか、それを見せることがあってもいいのではないか?」
と考え、5歳児と1週間に渡り、カラダを使って曲作りをしてみることにしたのだ。不思議なもので、それが新聞で紹介されて、5月(2週間後)には小倉小学校に行くことになり、6月(1月後)には、大学の児童学科で音楽を教えないか、という話が来て、7月には、エイジアスの初企画として小学校で図工の授業をする。急に子どもがらみの仕事が増えた。そういう意味で、2000年は、ぼくにとっての子ども元年のような年だ。その翌年から、ぼくは児童学科の先生を3年間やって、昨年退職。そして、今、学生たちが、「カラダはどう表現するか」という研究をしている。2005年になって、2000年の子ども元年を思い出すかのような気分。

ここを貫いている一連の流れは、「ボディパーカッション(=カラダの打楽器)」ではない。「カラダは表現する」、「カラダは生きていて、生きたリズムがあり、それが音楽であり、表現になってしまう」ということを、子どものカラダを通して見つめなおそう、ってこと。音楽の根源とか、音楽以前の原初の音楽を見つめなおす作業をしたい、という意気込みだ。そこは、初心忘れちゃいけません!と、ビデオを見ながら、そんなことが一瞬頭をよぎった。

そんなわけで、彼女たちが卒論で取り上げていることは、「ボデイパーカッション」ではなくって、「カラダは表現する」、「音楽の境界線を越えて」、「演劇やダンスや体操や仕草や、いろんな場面と交差しながら」、となるのかなぁ。

ということで、彼女たちは、卒業制作とでも言うべき、作曲をするわけです。
「2時間あれば、10曲作れるんじゃない?何か10通りの違った切り口でやってみたら?」
と、ぼくは提案。「和風」、「ヨガ」、「カノン」、「これまでの実践で出たネタを素材に」、「ポスト」、「民族系」などなど、10のテーマを設定して、曲作り。

この間、ぼくは2階の自室で「ホエールトーン・オペラ2幕」のアレンジをする。譜面を書いていると、1階から奇声や叩く音が聞こえてくる。こうやって、ぼくが1曲の一部分をちまちま作っている間に、彼女たちは本当に10曲作ってしまった。みんな動きすぎて疲れるくらい動き回って曲を作ったみたい。

で、その10曲、ほとんど悩まずに次々アイディアが出たらしい。しかも曲調も様々な上に、ノリノリ。「運動会」をテーマに赤と白の二チームに分かれる曲もあれば、ヨガの曲では、一人ずつソロの部分で自分の好きなヨガのポーズを入れるし、「おちゃらかほい」的な手遊び風の動きもあれば、吉本の「パチパチパンチ」も「あるある探検隊」などの引用もあるし、ラクダやポストなどモノマネ(演劇)の要素もあるし、「ポスト」という言葉を音で展開させて、「ポスト」、「ポチ」とやったり、韻を踏むなど言葉のリズムで攻めたりしている。彼女たちが本当に楽しんでいるので、ただ遊んでいるだけのように見えるかもしれないが、そこにはかなり多様な手法、複雑な表現が混在している。

だから、あとは、この「複雑な表現が混在しているけど、ただ遊んでいるだけ、と誤解されそうな10曲」を練り上げて、「楽しさを失わないようにしながら、分からず屋の人でも良さが分かるような曲にする」作業。彼女たちは、この10曲を5分程度の1曲として再構成することになる。1月11日には、完成して、13日には見せてもらえることになりそう。出来上がった曲を、今度、片岡さんとかと演奏してみようかな。

で、結局、曲はできたけど、カルタ大会まではできなかった。残念。卒論に〆切はあるけど、カルタには〆切がないから。ということで、
「カルタ置いていきます。」
と言って、4人は帰って行った。

その後は、「音遊び」の本の譜例チェック、イラストのチェックをして、アレンジの続きをやって、曲が完成。10曲完成する間に、なんとか1曲作った。明日は、清書だぁ〜!!