野村誠の作曲日記

作曲家の日記です。ちなみに、野村誠のホームページは、こちらhttp://www.makotonomura.net/

指揮者は翻弄する

 アコーディオン奏者の大田智美さんが、昨夜から京都の我が家に宿泊。智美ちゃんは、現在ドイツの音大のアコーディオン学科で、御喜美江さんにアコーディオンを教わっている。2年前、御喜さんと「FとI」アコーディオン版の世界初演を演奏。今年の5月には、リール(フランス)に2週間滞在してもらい、コンサート、しょうぎ作曲、一般家庭への出前即興コンサートなど、色々一緒にやってもらった期待の若手アコーディオン奏者。

 東本願寺東本願寺の庭園、三十三間堂などミニ観光を楽しむ。夜は、超お薦めの食堂「東錦」で、最高の晩ご飯とおばちゃんとのお喋りを満喫した。

 智美ちゃんのリクエストに応えて、自分の昔のコンサートの録音やビデオなどを鑑賞する。97年の「踊れ!ベートーヴェン」の演奏を久しぶりに見る。当時のガムラン、随分演奏が下手だ。それと、同じコンサートで演奏されたホセ・マセダの「ゴングと竹の音楽」の演奏も久しぶりに見た。ホセ・マセダのテンポの一定しない指揮に演奏者が翻弄されていくのが、なんとも可笑しい。

 それにしても、作曲家の自作の指揮って、本当に厄介だ。ホセ・マセダの指揮も、何が何だか分からなかったが、江村夏樹の指揮も凄かった。P−ブロッ結成ライブ、1996年10月の新宿PIT INNでの江村夏樹作曲「ヘンバイの音楽」(鍵盤ハーモニカ8重奏)の録音も久しぶりに聞く。江村さんの指揮は、本当に凄かった。江村さんの指揮は、拍の頭を指示してくれないが、指揮が強烈な緊迫感とゴチャゴチャ感のエネルギーを発している。その結果、演奏家は必死に拍を合わせようとするが、江村さんに翻弄されて、縦が合わなくなり、途中でずれてしまったり、崩壊寸前になる。
 ところが、江村さんは初演後、
 「ここで、右のグループと左のグループがずれて、ユニゾンのはずがカノンになっているんだよ。」
と言いながら、そのずれた演奏を気に入っているのだから、面白いものだ。譜面には、「厳密なテンポと強度をもって」と作曲者自ら書き込んでいるのに、江村さんの指揮は、楽譜のテンポを完全に無視していた。

 楽譜に忠実に演奏して欲しいと思いつつ、でも実際に出てきた演奏が楽譜に忠実でなくても、意味性としてより忠実になる演奏なら、作曲家はそっちの方がいい、って言う傾向があるものですね。ぼくも、そうかな? 楽譜に忠実になりすぎて演奏に伸びがないよりも、楽譜の言おうとしていることに忠実であって欲しいですね。