野村誠の作曲日記

作曲家の日記です。ちなみに、野村誠のホームページは、こちらhttp://www.makotonomura.net/

みんなが違った時間を生きる音楽

恵比寿映像祭を見に行く。ルイーズ・ボッカイのアマゾンのヤノマミ族を撮った映像が面白く、気がつくと26分全部見てしまった。ミハイル・カリキスのイギリスの小学生とのコラボ作品や、カロリナ・ブレグワの台湾で撮影した9つのスクリーンで順に見る作品など印象的な映像がいっぱいあって楽しい。

 

夜は、横浜に戻り、ホセ・マセダの90年代の「5台ピアノのための音楽」と「2台ピアノと4本の管楽器」を聴く。ジョセフィーノ・チノ・トレドの堅実な指揮で、緻密に演奏される音響の渦は圧巻。と同時に、ホセ・マセダ自身の4拍子が不均等で、伸び縮みする不思議な指揮のことも思い出した。演奏家は、緻密に書かれた楽譜を見ながら、指揮者の指揮を頼りに演奏しているのだが、ホセの変幻自在な指揮に、譜面上の自分の現在地を見失い、各自がなんとか自律しながら演奏する。あのホセ・マセダの独特の指揮が、どんな効果を生み出していたのかについて、ちょっと懐かしく思い出しもした。

 

その話を終演後に高橋悠治さんにすると、つまり、みんなが違った時間を生きるってことで、あの時代だから、ああいう楽譜の書き方になったけど、今だったら、また違う方法になるのかもしれないね、と仰った。確かに、今だったら、ぼくは、また違ったやり方でやるんだと思う。

 

いろんな人との再会もあり、JACSHAの樅山さん、里村さんと、夕食。樅山さんのスタンフォード時代の友人が、今は中国の寧波に住んでいるとのことで、いきなり寧波話で盛り上がったり。里村さんは、マセダの音楽と香港のQuite Quiet Quintetに類似性を見たりする。ホセ・マセダのことを、いろいろ考える夜だ。