野村誠の作曲日記

作曲家の日記です。ちなみに、野村誠のホームページは、こちらhttp://www.makotonomura.net/

マセダになっちゃった/《タリック・タンバン》つながった

サントリーホールサマーフェスティバル2023『Music in the Universe』というコンサート、いや未来の社会、未来の音楽を考える/感じるための祭り、が無事開催された。ぼくは、ホセ・マセダの《ゴングと竹のための音楽》を指揮するという重責を終始笑顔で全うできて、素晴らしいメンバーと指揮で一緒に音楽をつくれて、本当に幸せだった。龍笛の伊崎善之さん、ファゴットの中川日出鷹さん、中谷満先生と相愛大学打楽器チーム、スレンドロ音階で見事に歌った東京少年少女合唱隊、そしてマルガサリ、本当にありがとう。指揮しているうちに、最後にはぼくがマセダ化していた。マセダを真似るつもりはなく、自分なりに精一杯作品に取り組んだら、ぼくの身体がマセダ化してしまった。天国のホセさんに捧げる演奏ができて嬉しかった。

 

また、新作《タリック・タンバン》の世界初演、本当に美しい瞬間がたくさん生まれた。ガムランの包容力の大きさを体感した。サントリーホールの大ホールでやっていて、大ホールの観客に聴かせるコンサートではあるが、同時にこれは祭り。大ホールの舞台を踏みしめて大地を鎮める儀式でもある。天国にいるジャワの達人と交信する祈りでもある。天国からミロトさんやスニョトさんやスラマットさんがやってきて、ぼくの身体に入ってきて、一緒に踊ってくれたり、近くで歌ったり笑ったりしてくれたんだ、きっと。

 

ステマネの井清さんが支えてくれて、ちゃんと上演できた。支えると言えば、音まち事務局の長尾聡子さんと吉田武司さんの支えがあってこそ、《タリック・タンバン》が上演できた。本当に感謝。照明の中島さん、舞台転換スタッフの方々、ホールの方々、表に見えない裏方の方々の仕事があって成立する祭り。

 

本日が142回目の「だじゃれ音楽研究会(だじゃ研)」は、ウイスキー瓶を美しく響かせ、音楽の喜びを全身で表現してくれた。懸念された綱引の綱で舞台上に土俵をつくるのも無事成功。JACSHA(日本相撲聞芸術作曲家協議会)の鶴見幸代さんの相撲甚句の歌声や四股が場を少しずつ相撲へ導いていく。ジャワ舞踊の佐久間新さんと、相撲の岩本真輝さんによる土俵入りや相撲が本当に美しかった。ジャワ舞踊は相撲のようだし、相撲はジャワ舞踊のようだった。ほんまなほさんと西真奈美さんのダブルルバブも美しく響いたなぁ。En-gawaの空間をつくったKITAのメンバーに、綱引きに加わってもらえた。大ホールのコンサートと繋がった。最後の歌が始まる時の合図を、「つーなーがったー」と言ったのは、実はインドネシア語の「1234」の「tuwagapa」との日尼混合のだじゃれ。

 

正直言って、ぼくはコンサートも好きだし、コンサートホールも好きだし、現代音楽も好きだ。ただ、今回は、三輪眞弘さんから単なるコンサートではなく「未来の社会や音楽を考える集会(フォーラム)」の遥か先に位置付けられる企画をやりたいとの依頼だったので、何がなんでもに単なるコンサートに終わらせる気はなかった。意地でも「西洋音楽」に回収されないという初志を貫徹した。舞台上のみんなとも交信したけど、客席とも異界とも交信した。

 

藤枝さん、宮内さん、小出さんの作品の世界初演もあったが、上記2作品の上演に精一杯だったので、他の3曲をじっくり鑑賞することはできなかったが、素晴らしい演奏だったのだろう。朝から晩まで演奏し通しのマルガサリのみなさん、おつかれさま。そして、このクレージーな企画を発案してくれた三輪眞弘さん、ありがとう。

 

せっかく馴染んだみなさまと

今日はお別れせにゃならぬ

いつまたどこで会えるやら

それともこのまま会えぬやら

思えば涙がパラーリパラリと