野村誠の作曲日記

作曲家の日記です。ちなみに、野村誠のホームページは、こちらhttp://www.makotonomura.net/

あらゆるところに土俵をつくり あらゆるところに取り組みをつくる

JACSHA(日本相撲聞芸術作曲家協議会)の夏合宿を茨城の鶴見部屋で。

 

あらゆるところに土俵をつくり

あらゆるところに取り組みをつくる

 

コンサートホールとか、劇場とか、音楽業界とかだけでなく、あらゆるところを活動する場にする。土俵とは、人と人がぶつかり合える場所。でも、右翼と左翼はお互いを罵ることはできるが、そこに行司役が存在すると、取り組みになる。お互いに息を合わせ、相手に耳を傾け、対話し、取り組むこと。そうした場をつくること。それは、あらゆるところに土俵をつくり、あらゆるところに取り組みをつくること、と呼べるかもしれない。行司は、ファシリテーターと呼ばれるかもしれないし、コーディネーターと呼ばれるかもしれない。または、板挟みの立場かもしれない。

 

土俵=互いを聞く場所

 

息を合わせて立ち合う。お互いの呼吸を尊重しなければ、息は合わない。JACSHAの仕事は、土俵をつくり、取り組みをつくること。あいちトリエンナーレ2019の「表現の不自由展・その後」を巡って、いろいろな言葉が発せられている。その言葉と言葉が出会って取り組みになる土俵を、どうやったつくれるのか。その立場と立場が出会って取り組みになる土俵をどうやってつくれるのか。お互いに相手を尊重し、相手の息遣いを尊重し、相手の声に耳を澄ませて、取り組みを成立させるための土俵。共通の対話の場としての土俵がいる。すれ違い、噛み合わない世界から、取り組みが立ち上がるための土俵。それがJACSHAの道。相撲道。作曲道。

 

本日は、明日のコンサートとワークショップに向けて、準備を続けた。昨年10月に調査した竹野相撲甚句と、大相撲の相撲甚句を分析して比較してみた。この二つの音楽を同時に響かせるとどうなるだろう?試してみた。似ているけれども違う二つが出会った時に、美しい出会いの音楽が生まれた。バッハは2声のインベンションを書き、ジャクシャは2声の相撲甚句を四股錯誤する。

 

その後は、ピアノだったり、声だったり、鍵盤ハーモニカだったり、練習をする。10ヶ月前に城崎でのコンサートで演奏した曲ばかりだが、うろ覚えで忘れているところもいっぱいあり、思い出しながら確認する。実際に、「ネッテイ相撲」や「古式土俵入り」など、年に一度のお祭りで奉納する神事相撲を、毎回、1年ぶりにやると、思い出すのも大変で、そうした時に微妙に芸能が変容していくこともあるのだろう、と思う。

 

 

JACSHA合宿はじまる

茨城県に移動。JACSHA(日本相撲聞芸術作曲家協議会)の合宿。

 

作曲家の鶴見幸代の実家を訪ね、鶴見宅のピアノで連弾。「相撲聞序曲」(野村誠作曲)と「朝太鼓」(鶴見幸代作曲)。

 

その後は、鶴見部屋にて、バーベキューしながら、語り合う。相撲聞芸術の今後について。そして、樅山智子さんが、つい数日前まで、あいちトリエンナーレ2019の現場にいたので、彼女の体験の報告を聞きながら、深夜まで語り合う。

 

2年前の8月9日は、長崎で平和について幼稚園児と歌をつくった。幼稚園児が考える平和は、こんな歌になった。

 

へいわは たのしいこと
へいわは あそぶこと
へいわは まもること
へいわは なおること
へいわは、ちっちりちっちっちー

わーわーへい わーわーへい
わわへい わわへい わわへいわ
わーーーー

 

 話し合いは、時間がかかる。独裁は速い。でも、ことわざは言う。急いてはことを仕損じる、急がば回れ。多分、遅い方が速く、速い方が遅い。焦ってじっくり話し合うことを省略しないこと。民主主義は時間がかかる。共同作曲は時間がかかる。コラボレーションは丁寧に時間をかけて進める必要がある。でも、ぼくの経験上は、それは遅いようで、一番確実で速い方法。急がば回れ急がば回れ

 

ヒューとノムラのミステリー音楽

1月にヒュー・ナンキヴェルと行った「ミステリー音楽」ワークショップの動画が公開になった。映像は、泉山朗土さん。

 

vimeo.com

英語の歌詞を推理して、想像上の日本語訳の歌を作詞/作曲したり、指紋で楽譜をつくってその演奏の仕方を推理して作曲したり、いろいろ解明する謎をでっちあげては、推理して、音楽を創作した。わかりやすい音楽もいいが、わからない謎の音楽も楽しい。9月のインターナショナル・アガサ・クリスティ・フェスティバルと繋げるために、9月3日ー10日は、イギリスのトーキーに滞在。あ、もう1ヶ月後だ!

 

謎といえば、8月15日のワークショップで使う打楽器のリストを、打楽器奏者の野尻小矢佳さんが送って下さっていて、バラフォン(アフリカの木琴)の音階のことを質問したところ、野尻さんの楽器の音階が、偶然(だと思うのですが)20世紀のフランスの作曲家オリヴィエ・メシアンの移調の限られた旋法第2番(コンビネーション・ディミニッシュ)にそっくりな音階だったことに気がつく。8月15日は、子どもたちと中川賢一さん、野尻小矢佳さん、鵜木絵里さんと、バラフォン協奏曲やる構想が生まれてくる!楽しみ。

 

ミャンマーにいる柿塚さんと、ネット通話で打ち合わせ。これまで日本センチュリー交響楽団でやってきたコミュニティ音楽プログラムをもとに、音楽家のためのワークショップハンドブックをつくる構想。

「夏休みこどもアートサーカス」を作曲

あいちトリエンナーレ2019の「表現の不自由展・その後」が、芸術祭開催から間もなく中止になった。ぼくは、実際に展示も見ていないし、詳細を細かく知るわけではないが、それでも確信を持って言えることは、展覧会関係者がここまで物凄く時間をかけて準備してきた展覧会であったであろうことだ。それを、たった数日で即中止にしなければならなくなったのは、本当に本当に悔しいだろうし、辛いことだと思う。でも、ここで終わりではない。必ず、どこかで「表現の不自由展・その後のその後」を開催することができるはずで、この状況は次への出発点になるはずだ。今、いろいろなところで起こっていること、議論されていること、それらを、しっかり記録し、次の時代に残しておくことは重要だと思う。政治家が何を言い、メディアが何を語り、どんな議論が起こり、どんな反響があり、そうしたことから、作品を生み出すことができる。本になるのか、映画になるのか、展示になるのか、オペラになるのか、演劇になるのか。いろいろな圧力や嫌がらせや逆風があったとしても、作品をつくること。発表する場を奪われても、別の形で発表をし続けること。そうした活動を、様々な形で支えること。

 

 

今日は、久しぶりに自宅だったので、あいちトリエンナーレに関する報道記事も、多少なり読むことができた。

 

そして、8月14日に、豊島区で行う中川賢一さん(ピアノ)、野尻小矢佳さん(打楽器)、鵜木絵里さん(ソプラノ)と野村で演奏するために、新曲「夏休みこどもアートサーカス」を作曲。簡単なフレーズなど断片が書かれたページを組み合わせて、各自が即興的に演奏する曲。民主主義の練習のために、もっともっと作曲をしていきたい。

 

 

 

 

 

 

淡路島の瓦

淡路島へ。10月5日、6日のKAATでのジャグリング公演「妖怪ケマメ」で楽器として使う予定の瓦を探しにいく。昨日の打ち合わせで急遽、かわら美術館の後藤さんも視察に来られる。

 

淡路島アートセンターの青木さんの案内で、中学校の吹奏楽部の練習を見学の後、津井の瓦を巡る旅。安冨白土瓦の見学、かわらやで炭火瓦焼ランチ、小瓦工場で瓦の音を探し横浜に送る瓦を選定、青木さん宅でのお茶、琴屋で瓦楽器の見学などを経て、7時間ほどの淡路島滞在を終え、京都に戻る。

 

淡路瓦の瓦粘土彫刻体験教室 安冨白土瓦

 

青木さんの素晴らしいホスピタリティーに感謝。瓦の音楽、末長く続けていきたい。

 

 

かわら美術館へ

さいたま滞在を終えて、京都に戻る帰り道、名古屋で途中下車し、高浜市のかわら美術館を訪ねる。日本最大の瓦産地の高浜市。日本三大瓦の三州瓦として知られる。淡路島で淡路瓦で、「瓦の音楽」を2013年から探求してきたが、初めて、高浜を訪ねる。

 

淡路島で何度もお世話になった鬼師「鬼忠」の川崎さんが、今は高浜在住のようで、かわら美術館の方にそのことを言うと、すぐに川崎さんが飛んできて、打ち合わせに加わってくださる。嬉しい再会。

 

Onitada.com

 

建築の近代化によって、少しずつ姿を消し始めている。店をたたんだ瓦の工場や職人が、たくさんある中、高浜は、かわら美術館をつくり、瓦で市の特色をアピールしようとしてきて、様々な試みをしてきた。鬼道と呼ばれる瓦を楽しみながらウォーキングできる散策コースもある。美術館には、中国の紀元前の古い瓦なども展示してある。

 

屋根に瓦をのせるのは、ヨーロッパもアジアも、いろいろな国である。しかし、日本ほど、屋根の部位によって様々に瓦の形状を変えるのは非常に珍しく、そのため和瓦の種類は非常に多様で、その結果、様々な音色の瓦があり、音の種類が多用であるため、瓦の音楽が最も発展しやすい環境にあるのが、日本だ。

 

さらに、淡路島は1000度ほどで焼いているが、高浜は1200度ほどで焼いているので、おそらく淡路よりも音が高いに違いない。すると、淡路瓦と三州瓦を組み合わせれば、瓦の音楽の可能性はさらに広がるに違いない。ということで、近々、高浜でコンサートをすることになりそうだ。大変嬉しい。

 

そして、久しぶりに京都に戻る。旅のお共に持っていた「CHANGING THE SYSTEM: MUSIC OF CHRISTIAN WOLFF」を読了。音楽と政治。プロ音楽家だけでなくアマチュア楽家や非音楽家が参加する音楽。作曲家や指揮者が支配するのではない開かれた音楽。クリスチャン・ウォルフという作曲家が試行錯誤してきたことを、本を読みながら、いろいろ考えた。

 

帰宅後、門限ズの会議。11月2日/3日のゲキジョウ実験!!!「銀河鉄道の夜→」の構成と今後のリハーサルの進行についての2時間半の打ち合わせ。

 

 

 

 

 

 

うつくしいまち埼玉公演

テアトロ・ムジーク・インプロヴィーゾ「うつくしいまち」埼玉公演を、無事終了。多数のご来場ありがとうございました。個人的には、さいたまトリエンナーレ2016の時に出会った方々との再会も、格別。

 

予想以上に多数のアンケートが回収されたこと、大人だけでなく多くの子どもたちがアンケートを書いてくれて、嬉しかった。終演後に舞台にあがってきた多くの子どもたち、大人たちとの交流の時間も、大変よかった。ワークショップに参加した子どもが、ワークショップでつくった曲が入っていて喜んでくれたり、ワークショップの時にぼくが歌った即興の「10月生まれのうた」をもう一回歌って欲しい、と言われたりする再会も、うれしい。

 

劇場のスタッフの皆さんとのお別れは寂しいが、また、いつかこの劇場に帰ってきて、再会できると思う。今回は大変お世話になりました。グラーツェ!

 

テアトロ・ムジーク・インプロヴィーゾの公演、次は、9月にイタリアのミラノとトリノでの4回。イタリア公演の情報は、こちら。

 

www.mitosettembremusica.it

そして、こちら、

www.sistemamusica.it