野村誠の作曲日記

作曲家の日記です。ちなみに、野村誠のホームページは、こちらhttp://www.makotonomura.net/

佐藤伸輝の《ロマンスをぶち殺す》/第160回だじゃれ音楽研究会

オーケストラ アンサンブル・フリーEASTの第21回演奏会(@杉並公会堂大ホール)を聴きに行く。目当ては、佐藤伸輝の新作《ロマンスをぶち殺す オーケストラのための》の世界初演に立ち合うため。2002年生まれで若干21歳の佐藤伸輝さんは、ぼくが最も注目している作曲家。彼は優れた即興演奏家で、ピアノに向かうと、いつまでも音楽が溢れ出てくるし、その溢れ出る演奏からパッションが説明不能の沸き起こる。だから伸輝くんの音楽は、ぼくを理由なく惹きつけるし、勝手に同志だと思っている。

 

タイトルに「ぶち殺す」などと入っていて、物騒なのだが、そもそも3年前に初めて聴いた彼の作品は、カンボジアポルポトの大虐殺を題材にした《終の住処》だ。こんな若さにして、どうして彼は、死に向きあう音楽を書き、そこから切実さのようなものが滲み出てくるのだろう?

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新曲は、定番の御涙頂戴的に大量生産消費されるポップスのコード進行に依拠し”感動”を誘うクリシェを多用し、それを即興的でエネルギッシュな騒音でぶち壊す。しかし、いくら破壊しても、そこから亡霊のように俗っぽいメロディーは蘇ってくる。根絶しようとして激しく吹き飛ばした後に息絶え絶えに聞こえてくる微かなメロディーは、ださいを通り越えた美しさであり、21世紀における「侘び寂び」だった。指揮の浅野亮介さん、オーケストラの皆さん、真剣な素晴らしい熱演だった。また、再演してね!

 

そのまま東京芸術大学千住キャンパスへ行き、第160回だじゃれ音楽研究会(=だじゃ研)。8月に野村の不在の間に回を重ね、本番もこなしてきただじゃ研。どんどん進化を遂げていて、素晴らしい。ビデオで見るMemet Chairul Slamet作曲の《Rock Sing》もかっこいい演奏だった。そして、来年開催する『千住の1010人』のイベント名を話し合い、

 

野村誠 千住だじゃれ音楽祭

音で遊び 街を奏でる

『キタ!千住の1010人』

 

(だったかな)というタイトル案が出てきた。「キタ!」は「帰って来た」の「来た」であり、「北千住」の「北」でもあるが、インドネシア語で「わたしたち」を意味する「kita」でもある。昨年の夏、コラボしたインドネシアのコレクティブの「kita」でもある。いいタイトルがきた。

 

その後、みんなとご飯しながら、気候変動、食、アートのこと、色々話をして、だじゃ研を続けている意味を、少しずつ言語化する時間を過ごす。

 

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