野村誠の作曲日記

作曲家の日記です。ちなみに、野村誠のホームページは、こちらhttp://www.makotonomura.net/

温泉神社の相撲桟敷/暴力と音楽

ジャーナリストの友人が熊本に取材に来ていて、連絡がありランチ。つもる話を色々話す。八代の少し南にある日奈久へ。海と山が間近にある温泉地。温泉神社の相撲桟敷を見学する。天然の地形を利用し江戸時代に奉納相撲などで賑わったらしい。その後、熊本市内に移動し、橙書店でランチ。隣のギャラリーで豊田直子展を味わう。

 

ウクライナの戦争のニュースを前にすると、2001年の出来事を思い出す。戦争や暴力にどうやって抗って生きていくかについて、色々考えさせられた体験だったので、改めて書いてみよう。

 

2001年10月、DV防止法が制定された。夫婦やカップル内での暴力を防止するための法律ができるのに合わせて、カウンセラーの草柳和之さんは、野村誠に新曲を委嘱した。ぼくは、《DVがなくなる日のためのインテルメッツォ(間奏曲)》(2001)を作曲し、9月に完成し、10月に『DV鎮魂の会』でお披露目となった。しかし、DV防止法の制定は、ほとんどニュースにならなかった。理由は戦争だ。911のテロがあり、10月に入るとアフガニスタンへの侵攻が始まった。マスコミは次々に戦争の報道をし、DV防止法のニュースは、予想以上に少なかった。暴力に反対する法律、暴力に反対する音楽、暴力に反対するイベントに関する報道が、戦争という暴力の報道によって、大逆風を受けたのだ。戦争のせいで、ニュースにならず、注目を浴びず、本当に少ない観客の中、《インテルメッツォ》の世界初演は行われた。準備してきた関係者の方々の思いを想像すると、胸が痛くなったし、悔しかった。自費を投入して新曲を委嘱しイベントを準備してきた草柳さんは、さぞかし悔しかったに違いない。しかし、終演後に後片付けをしながら、草柳さんは笑顔で力強く語った。新しい曲が生まれたこと、今日という日を起点に、DVをなくしていく活動をしよう、と。草柳さんは、その言葉通り地道に活動を続け、今は「第1回パープルリボン作曲賞」を準備している。絶望の淵で希望を見出して生きる草柳さんの行動には、勇気づけられる。