野村誠の作曲日記

作曲家の日記です。ちなみに、野村誠のホームページは、こちらhttp://www.makotonomura.net/

念を送ること

《200m想》の作曲作業。2地点でのリモート公演。コロナ以降、インターネットを介してのリモート共演の可能性を探ることが増えた。同じ地球上の遠隔地との共演をすることと、冥界との交信をすることは、全然違うことのようにも思うが、実は非常に近い気がしている。インターネットを媒介にして情報が送られる。そこで送られる情報は、視覚的な情報だったり、音声情報だったりして、情報量が多いと通信に負担がかかるから、情報を圧縮したり、情報の解像度を落として送信したりする。そうした簡素化された情報を頼りに、我々は想像力で補いながら、コミュニケーションをしている。作曲をしたり、演奏したりしながら、同時に何かを強く念じたりする。演奏によって、情報としての音声が伝達されるのかもしれないが、音声以外に念のようなものが伝わっているように思う。よこはま動物園ズーラシアで、「ゾウは高い音が好きです」と飼育係の方にアドバイスを受けて、安易に鍵盤ハーモニカで高い音を気持ちを込めずに吹いた。すると、ゾウはくるっと背を向けて去っていった。「しまった」と即座に反省し、次の瞬間に「これがぼくの音です。聞いてください。」という気持ちで吹いたら、すぐにゾウは振り返り戻ってきた。だから、作曲すること、演奏することは、楽譜上に書かれたデータなどに集約されるのではなく、楽譜を書くにしても書きながら一音一音に込めた「何か」が大切なのだと思う。だから、作曲しながら、演奏しながら、確認する。

 

作曲の途中だが、明後日の対面でのリハーサルの前に、デモ音源を送っておこうと自宅で軽く録音してデータを送る。本番では、しっかり気持ちを込めて演奏しよう。その後も譜面を手直ししてピアノを練習。3月18日の公演《200m想》。