野村誠の作曲日記

作曲家の日記です。ちなみに、野村誠のホームページは、こちらhttp://www.makotonomura.net/

野田幸江さんとの講座

熊本から滋賀に移動。びわ湖アーティスツみんぐる2021『ガチャ・コン音楽祭』の準備を進めている。9月12日まで緊急事態宣言の滋賀なので、一般公開のイベントなどは中止や延期しているが、本日は、10名弱のイベントで野外での活動が中心になるので、予定通りに開催。

 

新幹線の車内で、水口囃子の「ヤタエ」の音源を聴いて、笛のフレーズを譜面に起こしていく作業をする。60拍で循環するが、60拍が時々変拍子になって複雑なので、ループ(循環)しているのに、ぱっと聞くと気がつくと繰り返しているような気がするけど、いつの間にかもとの風景に戻っているような感じ。

 

近江鉄道に乗ると、ガチャ・コン音楽祭のポスターが中吊り広告になっていて、びっくりした。全部の電車についているらしい。中吊り広告は人生初かも。水口碧水ホールにつく。このホールでは、2003年から2007年まで毎年、『音楽ノ未来 野村誠の世界』という企画をやった。2003年の企画の時、碧水ホールが作ってくださったパンフレットのデータが、今もネット上にある。美術家の島袋くんやアサヒビールの河村さん、作曲家の三輪さんの貴重な言葉などもあり、これを読み返すと背筋が伸びる。そういう思い出の場所。

 

音楽ノ未来・野村誠の世界パンフレット/滋賀県水口町碧水ホールにおけるガムランプロジェクト

 

水口囃子「八妙会」の会長の鵜飼勝則さんと打ち合わせ。水口囃子のことを教えていただき、実際にぼくが音源から起こした譜面をもとに鍵盤ハーモニカで演奏して、確認していただいた結果、ぼくが聴いた音源は「八妙会」の演奏バージョンとは、微妙に違うらしく、「八妙会」のCDをいただき、そちらと合わせて演奏できるようにすればいいとのこと。

 

コーディネーターの野田智子さんと永尾美久さんが、地域コーディネーター”ぐるぐる”育成講座のメンバーを連れて、ツアーライブ『無人駅の音楽会』の会場巡りを午前中にやってくれていた。数名が参加し、駅で電車に乗り過ごし1時間待つハプニングなどもあり、メンバー間の交流も進んだようだし、積極的に企画も考え始めていてくれて、楽しみ。

 

今日は、現代美術家であり花屋さんである野田幸江さんをお招きしての講座。鉛筆で巨大な細密画を描き、自己の内面の見えない世界を可視化していた画家だった野田さんは、家族の死をきっかけに、風景画を描くことになる。ありとあらゆる生きているものは死んでいく。死ぬ前の今生きている姿を描くことを、野田さんは選ばれたのだろう。そして、風景を見ること、家業の花屋を引き継ぐこと、現代美術作家として活動することが、野田さんの中で次第に結びついていく。それは、生きていることを愛でることであると同時に、死とも向き合い、死を受け入れることでもある。内面が表出される初期の鉛筆画を、ぼくは見たことがない。でも、今の野田さんの活動の中にも、様々に野田さんの内面が投影されていて、それをぼくたちに突きつけてくる。と同時に、野田さんからは、ポジティブなオーラが出まくっていて、野田さんの作るオブジェや空間からも、そのオーラを発している。だから、野田さんのオーラを浴びた講座のメンバーたちも、そのオーラを受け止めて、非常にのびのびとフィールドワークができた。

 

フィールドワークは、雑草や道端の石ころを集めた。それを花瓶に活けたり、床に並べたりした。誰も見向きもしない雑草や石ころが、なんと美しいことか。また、それぞれの人が何気なく摘んだり、活けたりしただけなのに、なんと個性がにじみ出てくることか。道端にあった雑草の言葉を聞き取るような感性で、世界に目を開き、耳を開く。すると、世界には可能性がゴロゴロ転がっている。滋賀県の東近江を見渡すだけで、可能性の宝庫だ。でも、そんなに感性を開いていたら心が病気になってしまうほど、人間の世界は厳しい情報が溢れていて、ぼくらは防御策として普段は感性の扉を閉じて、なんとか生き延びている。でも、今日は、みんな感性の扉を開いて、受け止めた。そんな交換ができた。こういう時間がつくれるといい。

 

少人数の会だったこともあるけど、1回目の藤野裕美子さん同様、野田幸江さんも、参加者全員の声を聞き、全員に感想を伝えていた。それぞれの人がやってみたことに対して、こうやって声をかけてくれると、存在を肯定されているようで、嬉しくなる。アーティストが作品を発表する時もそうで、なんでもいいから感想を伝えてもらえることは、とても大きい。野田さんがそれぞれにコメントしている時に、鍵盤ハーモニカで伴奏した。まさに、伴奏。お話を聞きながら、相槌を入れたり、支えたりするように寄り添って演奏してみた。ぼくなりに、それぞれの植物の声を味わい、それぞれの個性を理解する方法でもあった。

 

野田さん、皆さん、ありがとう。