野村誠の作曲日記

作曲家の日記です。ちなみに、野村誠のホームページは、こちらhttp://www.makotonomura.net/

新しい音楽が生まれるところ

別府の公会堂は昭和3年築の歴史的建造物で、1952年にアルフレッド・コルトーが来日した際に、コルトーが弾いたコルトー所縁のピアノもある。素敵なスペースと人々の記憶が集う場所。いつか、ここで何かやりたいと思う。

 

おおいた障がい者芸術文化支援センター主催のセミナー「新しい音楽が生まれるところ」の講師を、長津結一郎さんと野村誠で担当。長津くんとは2006年の取手アートプロジェクトでの「あーだ・こーだ・けーだ」に始まり、これまで色々な現場で一緒になってきたが、二人で講師をするのは初めてで、今日は記念すべき日だった。

 

最初に20分ずつのプレゼン。じゃんけんの結果、長津が先で野村が後になる。九州大学に赴任してすぐに、映画「silent」の上映会を企画した話で、音楽って何だろう?という問いかけや、聞こえない人にとって音楽って何?と問いを投げかけた一例を示したり、大学で作曲の授業をする中で、作曲の方法を教えるのではなく、音楽が生まれてくる環境をつくることを考える授業をした話など。野村は、鍵盤ハーモニカ・イントロダクションから始まって、鍵盤ハーモニカとピアノを比較し、楽器の安定/不安定と可能性について、障害と能力についてなど語る後、香港やさくら苑などの体験談少し語り、北海道での氷の上で石を投げた話をする。聞くこと、受容することの重要性とともに、こちらから働きかけた上で聞くこと、相互作用についての一例として。

 

その後、長津+野村の連弾で、野村作曲「相撲聞序曲」を演奏。長津くんとデュオ演奏も、初めてだ、きっと。激しいぶつかり稽古のような演奏。その後、参加者の方々とディスタント・コミュニケーションを模索する。離れての握手。それは、クリスチャン・ウォルフ作曲の「Burdock」の一場面を思い出す。クリスチャン・ウォルフは、他の奏者と目を合わせて、その人と一緒に音を出す、というのを、どんどん距離の離れた人とやっていく。楽器や音でのリモート握手は、なかなかいい音であり、参加者同士が離れながら出会い直す時間にもなる。

 

そして、そこから、部屋の中で最大限のディスタンスを取り、部屋の電気を消して暗闇の中で、音の握手を試みる。それは、暗くて見えなくて、意思疎通がしにくい困難な状況で、その困難の中、人によって様々な関わり方をしていた。強く発信して、レスポンスを求める人。なんとか受容しようとする人。戸惑う人。内にこもる人。音の世界に没入する人。etc......

 

最後は、対談。企画の立花さんも加わり、さらには参加者の皆さんも色々意見を聞かせてくれる。そうして交換する中、色々な人がいて、色々な関わりがあり、色々な思いがあって、色々なモヤモヤがあり、人が一緒にいることって、こんな場が生まれるのだ、と思うと、愛おしい時間だった。

 

長津くんと、もっと色々話したいとも思ったし、参加者の方々の様々な思いも、もっともっと聞きたいと思ったし、全部で2時間は、出会いの時間であったとも思い、つづきは、また今度ーーーー、なのだ、とも思った。

 

別府、大分への1泊2日。なんとか大雪から京都に帰還。皆さん、またお会いしましょう。