野村誠の作曲日記

作曲家の日記です。ちなみに、野村誠のホームページは、こちらhttp://www.makotonomura.net/

明治の一人相撲

小沢昭一著の「私のための芸能野史」(筑摩書房)、読了。本当に面白い本で、最初が「万歳」で始まって、途中で、「女相撲」、「浪花節」などを経て、「漫才」があって、最後に「ふたたび万歳」が来る。実際の大道芸人たちへのインタビューがとてもリアルで面白い。そして、愛知県の万歳が明治の頃に上方に伝わり、それが漫才になっていく。ぼくは出身地である名古屋に、それほど強い郷土愛を抱いているわけではないが、大阪とか東京の文化と思っていた漫才も、元を辿ると尾張万歳だったのか、と少しだけ誇らしい気持ちになり、「千住だじゃれ音楽祭」で2013年に田中悠美子さんと「千住万歳」を発表したけれども、また「千住万歳」再演したくなった。

 

また、この本のp.249に面白い記載があり、

 

また明治二十五年「朝野新聞」の記載によれば、

江戸時代、合棟は「浅草堂前(のちの松葉町)、両国コリ場、下谷藁店、下谷山崎町、築地采女ケ原、久保町原、本郷附木店等の棟割長屋に住み、厄はらい、節季候、独角觝、蛇遣、願人坊主、辻祭文、大道講釈、お釈迦の甘茶売、阿呆陀羅経、お茶の子、火事場附、吉原細見、娘評判記、御祭の番附、御話(富籤のあたりの籤を知らせるもの、その価四文)、身振り人形、砂絵、浅草土産飛んだり跳ねたり、手品遣い、軽業、若竹売の類」を営業していたという。

 

ここで特に気になったのが「独角觝(ひとりずもう)」。現在でも、愛媛県大三島に「独り相撲」という相撲神事が残っているが、大道芸としての「ひとりずもう」というものが、どうやら明治時代まであったのだ。北斎漫画の中で北斎も独り相撲を描いているので、江戸時代にもあった。

 

以前「能楽源流考」を読んでいた時に、「新猿楽記」の中の伏見稲荷の稲荷祭の様子(賤民猿楽の芸態)に関して、

田楽、傀儡子、唐術、品玉、輪鼓、八玉、独相撲(ひとりずもう)、独双六、無骨有骨延動、‥

と書いてあった。平安時代に猿楽にあった独り相撲は、その後もずっと伝承されてきて、明治時代まで伝わっていたという気がしてきて、またまた興味が湧いてくる。どちらにしても、明治時代に羅列されている営業の内容は甚だ雑多だし、平安時代に羅列されてい芸もる雑多。一人相撲があって、「ひとり双六」とか全く意味不明だけれども、名前だけでも惹かれる。という、インスピレーションをいっぱいいただく名著だった。

 

こんなことを思っていたら、今朝の「四股1000」で打楽器奏者の神田佳子さんが、奈良の葛城市相撲館で独り相撲をしている情報を教えてくださった。調べてみると、こんなイベントをやっている。

 

おひとりさま相撲大会 - 葛城市

 

「千住の1010人 in 2020年」を改め、「千住の1010人 from 2020年」として再始動し、その第1弾を10月31日に開催する方向で準備を進めている。10月31日のイベント名について、本日、事務局との打ち合わせで、「世界だじゃれ音line音楽祭」day1 と決まる。もとも「千住だじゃれ音楽祭」がオンライン(音line)になり、千住に世界中からアクセスできる参加型音楽祭になる。しかも、この日1日だけでなく、11月以降にもday2, day3と続いていく。楽しみすぎる。多彩なゲストも出演予定(Anant Narkkong、Memet Chairul Slamet、佐久間新、上田假奈代、大田智美、ジンタラムータ、尾引浩志池田邦太郎Pete Moser、i-dArtなどを予定)。

 

だじゃ研(=だじゃれ音楽研究会)との打ち合わせとオンラインセッションも楽しく、あっという間の2時間。カツカレーさまでした。

 

残りの時間は、Composite by the Numbersのための新曲の作曲作業を進める。とりあえず、2月14日で最初の死亡者が出たコロナウイルスの死亡者データに基づき、死者の数だけ音符を書いて、ついに9月20日分まで書く。1500人の方が命を落とし、1500の音符を書いた。人命の重みを感じまくっている。供養としての音楽を書きたい。