野村誠の作曲日記

作曲家の日記です。ちなみに、野村誠のホームページは、こちらhttp://www.makotonomura.net/

消しゴムをいっぱい使う

今日も新曲の作曲作業。久しぶりに、鉛筆と消しゴムを使って五線譜に楽譜を書き続けている。最近は、浄書ソフトに楽譜を入力していくことが多いが、2006年頃までは譜面は全て手書きだった。久しぶりに手書きの楽譜を書いていて、山盛りの消しゴムのカスが出てくることを懐かしく思う。確かに、昔は消しゴムのカスでいっぱいの仕事場だった。そして、手書きの自筆譜を少し離れたところから眺めて、譜面のビジュアルな形状を眺めて、見た目で気になる辺りを修正していく。不思議なのだが、音が魅力的だと譜づらも面白くなる。

 

10月31日から始まる「千住の1010人 from 2020年」の「世界だじゃれ音line音楽祭」に向けて、だじゃ研(=だじゃれ音楽研究会)の金管楽器奏者とのZOOM実験会。金管楽器は、音量が大きいため近隣への迷惑などを考えると、防音室やスタジオや公園などからリモート演奏しないとオンラインセッションに参加が難しい。しかし、そうした環境になるとインターネットへの接続が難しいことが多い。金管楽器奏者にとってのリモート合奏へのハードル。昨日、クラリネットの音は(背景雑音の除去を無効化しても)ZOOMによってかなり変調されたが、トランペットやホルンの音は、極端な変化は見られなかった。また、ホルンの低音域が聞こえなくなるのではないか、と危惧されたが、そうした現象もなかった。ただし、金管楽器同士でハモるのは、難しく、どちらかの楽器が強く出ると、別の楽器が背景に追いやられる。

 

こうした状況の中、その場で指示を大きな文字で書いて見せると、ZOOMでは、指示が見やすく演奏しやすい。複数の指揮者が指示を出し、それをプレイヤーが選択的に見ながら演奏するのも容易にできる。こうしたカードによる指揮などは、ZOOMは向いている。

 

続いて、だじゃ研の擦弦楽器奏者の人とZOOM実験。こちらは、コントラバスとチェロをテスト。コントラバスの低音でも音は消えないし、弓で弾いても、ピチカートでも問題はない。ところが、複数の楽器でハモろうとすると、やはり無理。いわゆる弦楽合奏みたいなサウンドになることは不可能に近い。小日山さんが、「弦楽四重奏」ならぬ「弦楽不自由奏」と言った。しかし、「弦楽五重奏」ならぬ「弦楽ご自由奏」にもなるかもしれない。色々試した結果、ZOOMで全く違った発想で行うリモート弦楽オーケストラのアイディアが思いつく。今日も収穫十分。

 

「千住の1010人」は、特定の楽器や演奏家を排除する企画をするつもりはない。しかし、ZOOMは、特定の楽器の音を排除する。だから、ZOOMを活用した企画をする上で、いかに排除されない状況をつくれるかZOOMの特性を徹底的に洗い出す必要がある。こんなことしても、無駄なんじゃない?どうせ、しばらく待てば、問題なく音楽ができるようにアップデートされるだろうし、とも思う。でも、アップデートされるまで、ただ待つのではなく、今、生きている証として、今、合奏を実現させたいし、この困難な中で合奏を実現させようと試行錯誤することで、音楽の捉え方を見つめ直す機会にしたいと思っている。

 

今朝の「四股1000」のレポートを執筆。JACSHAのウェブサイトに公開。今日の話題は、作曲の立合い、譜読みの立合い。相撲では、立合いに立ち遅れると後手後手にまわって、あっという間に土俵際になってしまう。作曲に着手しようと思っているうちに、〆切が来てしまうように。ぼくは近年、新曲の作曲に着手しようと思ったら、待ったなしで、すぐに作曲を開始して、前進するようにしている。うっかりしていると、すぐに土俵際(〆切)になってしまうし、土俵際になってから火事場の馬鹿力が出せることもあるが、そうなる前から着実に作曲を進めていけるようになりたいからだ。もちろん、無防備に前進すると墓穴を掘ることもあるから、悩むし、迷うし、躊躇するけれども、思いっきりよく前に出ることで、創作の突破口がつかめることも多い。でも、そのことを相撲の立合いと絡めて考えたのは、今日が初めてだった。

 

http://jacsha.com/archives/976