野村誠の作曲日記

作曲家の日記です。ちなみに、野村誠のホームページは、こちらhttp://www.makotonomura.net/

ZOOMはフルートのパタパタが好き

「千住の1010人 in 2020年」は、当初の予定から大転換して、10月31日にオンラインの音楽祭のような感じになり、1日だけに収まり切らず、さらに11月以降にも続いていく見込み。そのためのテストが、次々と進行中。

 

オンラインでコンサートやトークの配信をするのではなく、オンラインで大人数で合奏をするということに、どうやら、ぼくはこだわっている。そして、会議用のアプリZOOMを使うと、通常の合奏で当たり前に成立することが成立しないので、大抵の音楽家は、このアプリは音楽の合奏には不向きと考える。これは真っ当な考えだ。モノラルで、音質は劣悪に変調され、バランスは勝手に変わり、タイムラグもある。通常、音楽だと思われているものの多くは、台無しになる。

 

こうなると、ぼくのような捻くれ者は、だったら、既存の音楽とは全然別な音楽だったら成立するのではないか、と考える。そして、新しい音楽の可能性を見つけるために、ZOOMで成立する音楽はどんなものか、と探求していくと、何かが見えてくるのでは、と考える。だから、10月31日に向けて、猛ラッシュでZOOMの可能性と不可能性について、探求をしている。

 

本日は、香港のi-dArtとのセッション。オンラインでのイベントの中で、香港のi-dArtとのセッションの時間も持とうと思っている。2019年の「問題行動ショー」に出演してくれたメンバーだけでも10人以上の達人がいるが、感染対策で、一度に集まれないので、10月31日を第1回として、複数回に分けて登場してもらうのがいいと思っている。それで、初回に登場してもらう配役を色々考えたのだが、何せ楽器の音をノイズと判断して除去するようにできている会議用アプリZOOMのことを考えると、初回はZOOM

に絶対除去されない声でいくのが確実と考え、「烏龍茶」、「レモン茶」などと唱えるカヤンとのセッションにした。今日のセッションでは、久々にも関わらず、烏龍茶、レモン茶などの言葉を入れながら、独特なテイストで歌うともなく歌う、唱える。ぼくは、それに合わせてピアノを弾く。音まち事務局の西川さんは、それに合わせて、お茶を注ぐ。お茶をテーマにしたカヤンとのセッションは、面白くできそう。佐久間さんと「ケ茶」ができるといいなぁ。

 

夜は、だじゃ研メンバー有志との楽器別のZOOM実験。夜19時からは、木管楽器のZOOM。会議用のアプリであるZOOMは、人間の話し声以外の音を自動的に除去するようになっている。だから、ZOOMを使って音楽をしようとすると、不思議なことが起こる。「千住の1010人 in 2020年」では、様々な楽器の人々がオンラインで合奏できる状況を作りたい。100人がオンライン上で集まれるZOOMを活用するために、各楽器ごとのZOOMの特性を現在実験調査中だ。

 

背景雑音の除去機能を無効化(または低)すれば、フルートの音自体は、除去はされない。しかし、複数のフルートでハーモニーを奏でようとすると、どれか一つの楽器だけを強調して、なかなかアンサンブルにはならない。そんな中で、指をカタカタさせる奏法(スラップタンギング、キークリック)は、なぜか、めちゃくちゃよく聞こえる。この奏法だと、フルート100人集めても、面白い合奏ができる気がする。大発見。クラリネットロングトーンは、何もしていないのに、不思議な音(フラッタータンギング+ワウペダルをかましたような音)に変調される。前回、鍵盤ハーモニカで自然に音が出た設定で、クラリネットは不自然に変換される。ZOOMにとっては、鍵盤ハーモニカの音とクラリネットの音は、随分違うのだな、と驚いた。

 

20時からは、エレクトロニクスのZOOM実験。テルミン、自作の真空管ラジオ、自作のダクソフォン、シンセサイザー、i-phoneなど。ぼくは、John Ricahrdsの簡易電子楽器Sudophoneを演奏した。エレクトロニクスのノイズ的な音こそ、背景雑音として除去されてしまうのでは、と思ったが、思ったほど除去されず、色々な音色を楽しめた。実際に鳴っていた音に比べて、実はかなり除去されて音質が全く変わってしまっていたのかもしれないが、そうだとしても、面白い音の変換がされて、面白い。楽器のセッションで、今まで試した中で、もっともストレスなく自然にセッションしている感覚になった。イギリスのレスターでDirty ElectronicsをやっているJohn Richardsたちと、ZOOMで日英エレクトロニクスの大セッションをしてみたい、と思った。

 

こうしたオンラインの実験をしている時以外は、今日は、ずっと作曲。Composite by the Numbersの委嘱で作曲している新曲。コロナウイルスによる日本国内の1日あたりの死亡者数の推移を、音楽にしている。2月14日に最初の一人が亡くなられて、昨日は5月8日のデータまでを作曲したが、今日は昨日書いた部分の手直しをした後、8月半ばまでのデータを作曲した。4月、5月に爆発的に増えた死亡者数は、一気に減少し、死亡者数ゼロの日が何日も続くこともあったが、また8月に入って、増加していく。こうやって、実際に演奏してみると、このウイルスの手強さを肌身を持って感じる。それぞれの霊を供養したいと思うので、せめて、一音一音を大切に演奏したいのと、一音一音を吟味して作曲していきたいと思う。そうやって作曲しているうちに、だんだん音としても譜面としても魅力が増してきている。