野村誠の作曲日記

作曲家の日記です。ちなみに、野村誠のホームページは、こちらhttp://www.makotonomura.net/

相対性理論のような音楽

「千住の1010人 in 2020年」に向けてのオンラインミーティングと、だじゃれ音楽研究会(だじゃ研)。1ヶ月ぶりだが、懐かしく、そして、非常に刺激的な実験の場となった。事務局とのミーティングで8人の会議も凄かったが、だじゃ研は21人で、楽器のセッションや声のセッションもした。バンコクやロンドンからも参加。今までだったら、東京の人しか参加が難しかったところに、遠方からも参加できる面白さがあった。

 

ケロリン唱」は、もともと「ケロ」とか「リン」という声を、表拍と裏拍で入れ子状になるようにするリズミカルな声のアンサンブルだが、オンライン通信では、時間のずれが出るために、ユニゾンで同時にやろうとしても、適度にばらける。クセナキスリゲティ、ホセ・マセダなどの作曲家は、こうしたずれた感じを出すために、非常に複雑な譜面を書いた。今日、ぼくたちは、全員が同時に音を出そうと努力した結果、勝手にリゲティやマセダのようなリズムに変換される。これは、本当に面白い。指揮者が指揮をして、それに合わせようとすると、計算したようなバラバラになる。ユニゾンを目指すのに、勝手にヘテロフォニーに変換される。同時という概念が成立しないアインシュタイン相対性理論のような音楽環境が面白い。これを不便と捉えるか面白いと捉えるかだが、普段できない環境が新鮮なので、今は面白いし、ここからアイディアが膨らみそうだ。

 

楽器の音が勝手に聞こえなくなったりする中、シェイカーのリズムが結構クリアに聞こえて続けた。これも意外な発見。シェイカーを使うとか、各自が時計の秒針をみながら、同じテンポで演奏するなども、できるかもしれない。

 

「せっしゃエンリコでござる」という曲を以前作曲したが、名前を色々言って、リズムアンサンブルすると、お互いにずれているのだろうが、ループやビート同士だと、様々な組み合わせで面白くなる。これも、こういう状況でなかったら、それほど面白くないかもしれないけれども、こうなるから面白い。

 

こんな風にやっていたら、ぼくが1990年に作曲した「組曲」という発狂するような音楽を思い出した。この曲は、ヘッドフォンをしたパフォーマーが、同じものが録音されているカセットテープを聞いて、聞こえてきた音を声で真似するという曲。でも、ヘッドフォンのボリュームを大音量にするために、お互いの声は聞こえない。カセットテープの再生がプレイヤーによって微妙に違うために、最初の5分間の無音部分を再生した後に(この間は、水が滴る音を聞く)、それぞれがずれたタイミングで同じことをユニゾンでする。だから、能の音源を聴いている時は、こちらで「よー、ほー」と言うと、違うタイミングで、「よーほー」と始まる。しかも、大音量で自分の声が聞こえないので、声がうまくコントロールできずに、裏返ったりして変調される。この曲を、1990年は何十回とやった。あれから30年。あの時のコンセプトに、また違う形で戻ってくるとは思わなかった。

 

オンラインでの遠隔音楽セッションをするため仕組みは、今後どんどん整備されてくるだろう。でも、逆に、この会議向けに作られたZOOMを使って、どんな音楽だったら可能になるのかを、探ってみたい。次回に向けて、いろいろアイディア考えて作曲してみよう。楽しみだ。