野村誠の作曲日記

作曲家の日記です。ちなみに、野村誠のホームページは、こちらhttp://www.makotonomura.net/

まちの未来を創る音楽劇 「ゲキジョウ実験!!! 銀河鉄道の夜→」

京都の自宅にて。引っ越しの準備もいろいろ。

 

ゲキジョウ実験!!!「銀河鉄道の夜→」が、今週末に迫っているので、鳥取にいる門限ズのエンちゃん(ダンサーの遠田誠)とジョホンコ(俳優の倉品淳子)と連絡を取り合いながら、フィールドワークを公演にどう反映させるかや、美術家の藤浩志さんへの無茶振りの計画など、順調にアイディアが進んでいく。

 

門限ズのもう一人のメンバーのメイ(吉野さつき)による日本海新聞への寄稿を以下に紹介。ちなみに、鳥取での我々の現場を知らずにこれを読んだら、単なる綺麗事を言っているだけ、理想論を言っているだけと思う人もいるかもしれない。そんな風に、多様な人々が協力して、共同創作していく社会なんて、絵空事だと思うかもしれない。宮沢賢治も、綺麗事を言っているだけ、と思うかもしれない。でも、ぼくたちは、それができると思って、願って、祈って、小さな衝突や誤解を、調整し、創造の場をつくってきた。吉野さんは、自分の仕事をワークショップ・コーディネーターと呼んでいる。コーディネーターは、調整役。そのことを、若尾裕さんは板挟み芸術と呼んだ。板挟みになる理由は、紛争がなくなる世界が作れると信じているからだ。立場の違う人々の間に、接点がつくれると信じているからだ。強権的にトップダウンでなくても、世界を安定させられると信じているからだ。多様な人が共存する場で、起こってしまうかもしれない紛争や対立を回避して、それを議論や創造の場に変えていくこと。それは、水面下で起こる数々の交渉なども含めて、なかなか表面化しにくい仕事だが、最も大切なことだ。それが、吉野さつきの仕事だと思うし、こういう仕事こそが、現代社会が最も必要にしていることだと思う。

 

まちの未来を創る音楽劇
「ゲキジョウ実験!!! 銀河鉄道の夜→」
吉野さつき

今、鳥取でとてもすごい事が起きている。
11月2日、3日に鳥取銀河鉄道祭の一環として、とりぎん文化会館で上演される音楽劇「ゲキジョウ実験!!! 銀河鉄道の夜→」のリハーサルの中で、それは起きている。
市民参加型の演劇やミュージカルなどの多くは、プロのアーティストが「指導」を行い、アマチュアである参加者はその「指導」を受けるという構図になりがちだが、ここではかなり異なる状況となっている。宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』をモチーフとするワークショップを繰り返し、プロのアーティストが全てを決定するのではなく、そこで必ず話し合いを持ちながら進められていく。その場で参加者が創り出した表現や提案したアイデアがどんどん取り入れられ、幾つものユニークな場面が出来上がっていく。それをアレンジし、磨きをかけるのはやはりプロの役割かと思いきや、そこでもまた参加者が積極的に様々な提案をしてくる。「ここはもっとこうした方がわかりやすい」「ここでこんな音を入れたらどうか」「私はここではこういう動きをしたい」などなど、小学生も年配の人も、年齢も立場も関係なく意見を言う。プロの意見を唯一の「正解」とせず、お互いが納得できる方法を見つけ出していく創造のプロセスは、一人ひとりが意思を持ってその場をより良く変えていこうとする市民社会のあり方と重なる。さらに、この場には障がいのある参加者や外国人の参加者も混じっている。彼らもまた、臆せず意見を出していく。多様な人々が対等に関わりあう新しい共同体がそこに生まれている。この共同体でのプロの役割は、多様さ故に混沌とする場が崩壊しないように、その混沌を受け止める土台をしっかりと創り支えることだ。
またここでの経験は、特に参加している子どもたちや若者たちにとって、非常に貴重なものだ。これからの社会を担う彼らが、「専門家」に全てを委ねるのではなく、自分たちの手で、自分たちの意見で場を創り、多様な人々との関わりが持つ可能性を知る。この創造の場で起きている事は、もはや単なる市民参加の劇づくりではない。「本当の幸いはいったいなんだろう」と、賢治が残した問いを高らかに歌いながら、彼らはこのまちの未来を創っている。

※これは2019年10月20日付の日本海新聞に掲載されたテキストのロングバージョンです。

 

吉野さつき
愛知大学教授としてアーツマネジメントを専門に教えるほか、全国各地でコミュニティアーツプログラムやワークショップの人材育成事業に数多く携わる。異ジャンルコラボバンド「門限ズ」の一員として「ゲキジョウ実験!!!銀河鉄道の夜→」に参加、出演予定。