野村誠の作曲日記

作曲家の日記です。ちなみに、野村誠のホームページは、こちらhttp://www.makotonomura.net/

アンチ排除の住民参加型音楽劇を創作中

住民参加型音楽劇というジャンルがある。日本全国の各地で、市民ミュージカルとか、市民オペラとかが行われている。ぼくも、2007年に、宮城県大河原のえずこホールに頼まれて、ホール10周年企画として、演劇交響曲「十年音泉」を監修した。これが、演劇、ダンス、音楽、美術が交差する実験的な試みで、500名以上の住民が関与し、5時間強の大作を2回公演した。

 

月日は流れ、鳥取県のとりアート(県民が主体的に参加するハイレベルな舞台芸術作品の創造を目指す事業)に、木野彩子さんというダンサーが発案した意欲的な企画「鳥取銀河鉄道祭」に音楽監修として関わることになった。そして、ホールの中だけでなく、劇場の外でも屋台やいろいろなことが起こる木野さんのイメージを聞いて、「門限ズ」がぴったりだと思い、門限ズを推薦し、門限ズと県民で舞台作品をつくることになった。それが、ゲキジョウ実験!!!「銀河鉄道の夜→」で、今年の11月2日、3日に本番が行われる。

 

門限ズは、音楽(野村誠)、演劇(倉品淳子)、ダンス(遠田誠)、マネジメント(吉野さつき)の4人がプレイ(あそぶ)をテーマに交わるバンド的なユニット。現在、音楽チーム、ダンスチーム、演劇チームと、それぞれ20名ほどの参加者とクリエーションが別々に進行中で、7月以降にそれが合体し始める。今日は、音楽チームの2日目のワークショップ。

 

昨日、鳥取西高校合唱部とつくった「今こそ渡れ渡り鳥」を歌ったり、楽器でやってみたりした。これが、7曲目で、なかなかラテンなノリになって、ノリノリで演奏。昨日の合唱部と合体しても楽しいかもしれない。ノコギリ(ミュージカルソー)を持ってきた人がいて、ノコギリを借りて演奏して音を楽しむ人の様子が面白く、これによりそう「風の声」という渋い曲が8曲目になった。昨日、作った曲もおさらいした。ヴァイオリンが伸びやかに歌う「夜のピカピカ」が美しい。トーンチャイムの響きを味わう「どうくつ」は、初めての人もすぐに参加して没入できる音楽。活版印刷機の機械を体現する「活版所」は、インパクトドライバーの音もよくあった。「ふとんがふっとんだ」は5拍子のリズミカルな音楽。創作宗教曲「さそりの祈り」を厳かに歌い上げた。

 

休憩後は、中国語の「銀河鉄道」の発音を教わって、それにもとづいて9曲目の「銀河鉄道」が生まれる。ここで、鳥取市交響楽団からヴァイオリ二ストとチェリストが到着。一緒に、「さそりの祈り」と「今こそ渡れ渡り鳥」を演奏してみる。弦楽器が増えると音楽の幅が広がる。そして、せっかくだから、10曲目の「北十字とプリオシン海岸」を作曲。弦楽合奏トーンチャイムと朗読による美しい和音の音楽。弦楽オーケストラで演奏してもいいかもしれない。

 

ということで、残りの時間で、鳥取市響の人が実はジャズが好きとかで、急に、「My Favorite Things」を演奏してみたりして、最後には、1日の閉めの即興をした後に、野村が皆さんへのお礼としてピアノ独奏で、野村誠作曲「DVがなくなる日のためのインテルメッツォ」を演奏した。

 

かつての「十年音泉」もそうだったけど、このゲキジョウ実験!!!「銀河鉄道の夜→」は、日本における住民参加型音楽劇の歴史上、大きなターニングポイントになり得る企画で、きっと後世からはそう評価されることになるだろう。なぜならば、表現することに興味がある人、創造的な活動に興味があるという人でも、従来の既存の『住民参加型音楽劇』の枠組だと参加したくても参加できない人がいて、そうした既存の枠組から排除される人と旧来の枠組から排除されない人の双方が共存できる形式を探求する企画だからだ。そして、そうしたアンチ排除な形式だと質が落ちるという反論に対して、アンチ排除だからこそ創造的で質の高いパフォーマンスが体現できるということを実証すべく、ワークショップを進めていて、今日のワークショップも、まさしくそれが実現できている場だったと思う。みんな二日間、濃密なリハーサルをありがとう。次は7月、よろしくーー。

 

夕食後に、イギリスから偶々来ているJohn Ashfordさん(ダンスネットワークのディレクター)と話がはずむ。鳥取は、いろんな出会いのある場所だ。