野村誠の作曲日記

作曲家の日記です。ちなみに、野村誠のホームページは、こちらhttp://www.makotonomura.net/

対話としてのジャグリング

「妖怪ケマメ」、本日も2公演。これで、野村が生演奏で加わるバージョンの「妖怪ケマメ」は全公演終了。鳥取のゲストハウス「たみ」からやって来た骨董品のミニピアノが、最後まで大きな故障もなく、いい音を奏でてくれた。ハリー・パーチのように計算してつくった音律ではなく、ずっと忘れられて放置されていた長い年月の間に調律が徐々に狂っていった結果生まれた音律。でも、通常のピアノは調律が狂うと一音につき3弦あるのでホンキートンクになるが、このミニピアノは一音につき一弦なので、ホンキートンクにはならない。違った音律になる。このミニピアノに体を馴染ませるのは難しかったけれども、やりがいがあった。

 

公演も4公演とも、要所要所に違う味わいを出しながら、どれも素晴らしい公演になった。

 

ジャグリングというのは、一人でたくさんのボールを投げて技術を披露するものだと思っていた。一人で10個のボールを自由自在に投げてジャグリングできるジャグラーが、時には、たった一個のボールを、共演者に投げる。それは、投げるというよりも、預けるだったり、委ねるだったり、受け渡すだったりする。ボールを介して二人の間にコミュニケーションが生まれる。一人で完結する技術の披露としてのジャグリングから、他者と対話するジャグリングになる。この作品を通して、ぼくのジャグリング感も変わった。

 

ボールを交わすコミュニケーションは、演者の間だけではない。それは、演者と観客の間でも行われた。劇場での舞台公演なのに、ブラックボックスの中なのに、ストリートのような風通しの良さがあり、舞台と客席にある境界線が、徐々に意識から取っ払われていく。だから、終演後に、観客が舞台上に集い、出演者と会話をし、舞台上のボールたちと戯れる時間になる。この終演後の光景がこの作品に必須のシーンでもあると思った。

 

ということで、横浜での長期滞在もここまで。妖怪は、またそれぞれの旅に出る。多謝。