野村誠の作曲日記

作曲家の日記です。ちなみに、野村誠のホームページは、こちらhttp://www.makotonomura.net/

家でコンサートしたいな

最近、朝は米粉と豆乳のパンケーキをつくって、紅茶を飲んでいる。そんな感じに1日が始まると、ちょっと嬉しい。

 

相変わらず、自宅でピアノを練習している。明後日に、福岡市美術館でのコンサート「ノムラノピアノx福岡市美術館」。来週は、滋賀のスティマーザールでの「ピアノの本音」。新曲の弾きにくいところなども、ようやく指に馴染んできた。作曲を本番2週間前に終わらせておいて、よかった。

 

作曲家はなかなか〆切を守らない。演奏家は、練習時間が限られてくるので、できるだけ早めに譜面が欲しい。今回の場合、ぼくが作曲してぼくが演奏するので、作曲家の都合も、演奏家の都合もわかる。作曲家としては、もっと作曲したかったのだが、演奏家としての野村が、本番2週間前の5月4日をタイムリミットと主張したので、作曲家の野村は、そこまでになんとか9曲書いた。実際には、作曲家の野村は10曲以上書くつもりでいたのだが、既に弾きにくい曲が何曲かあって、演奏家の野村がこれ以上は無理と主張し、9曲目を書いたところで、作曲が打ち切りになった。幸い9曲目が曲集の終わりに適した曲だったので、作曲家の野村もこれに同意。こんな感じで、野村誠の中で、いろいろ交渉や折衝が行われている。

 

福岡では弾かないが、今年の3月に作曲した「十和田十景」という曲集があり、これは、十和田という小さな町の中で、日常の中を旅する小さな旅がもとになっている。主には、いろいろな家を訪ねて、その家の居間などでピアノを弾いた。20世紀のフランスの大作曲家のメシアンの伝記を読んでいると、彼の新曲が意外と個人宅で世界初演されていたりする。例えば、「ハラウィ」という長大な歌曲は、1946年6月26日にEtienne de Beaumont宅で世界初演されているし、1945年の5月14日にHenry Gouin宅で「アーメンの幻影」を演奏し、15日にはDelapierre宅で「ミのための詩」や「天と地の歌」を演奏し、18日にはEtienne de Beaumont宅で後のメシアン夫人となるロリオが「20のまなざし」を演奏し、25日にDelapierre宅で「時の終わりのための四重奏」を演奏したという感じ。家でコンサートって、もっと色々あってもいいのだろうなぁ、と思う。

 

では、福岡市美術館でのコンサートは、町をめぐるコンサートではなく、音楽を通して美術をめぐるコンサートになる。実際の絵画や彫刻と音で交信した体験を語ったり、映像を見てもらったり、音楽家として、美術館のコレクションの魅力を最大限に味わったり表現したりしてみたい。それにしても、福岡市美術館のコレクションには、魅力的な作品がいっぱいあり、どれも(ぼくにとって)謎多き作品であり、その謎に対する自分なりの返答をピアノ曲として返すのが楽しい。

 

来週の滋賀の「ピアノの本音」は、調律師の上野泰永がピアノの究極の音色を求めて、ガチンコ勝負してくる特別な場所で、かなり微細な音の違いまで聞き分けられるホールなので、こちらも通常以上に自分の身体や感覚を研ぎ澄まさして準備しないといけない。とりあえず、自分の感覚を研ぎ澄ますために、ピアノを練習するだけでなく、なぜか床磨きやトイレ掃除や雑巾掛けなんかをしている。

 

夜は、十和田市現代美術館の里村さんと打ち合わせをして、「十和田十景」の今後の展開のことなど相談し、1998年のパリでの出前パフォーマンスの話や2006年の取手での玄関コンサートの話などもする。取手アートプロジェクト2006の記録集を開けると、13年前の自分の言葉に出会う。

 

野村誠「かたちにしなくていい。かたちにしていくと、関われる隙間がどんどんなくなるんですよ。」

 

明日は、福岡市美術館へ。作品たちと出会えるのが、そして、学芸員の方々に出会えるのが、楽しみ。土曜日のコンサートは、定員180名で入場無料。福岡近郊の方々、聴きにきていただけたら幸いです。お待ちしております。