野村誠の作曲日記

作曲家の日記です。ちなみに、野村誠のホームページは、こちらhttp://www.makotonomura.net/

ピアノのおうち 観光⇨聴音

十和田市現代美術館の10周年記念企画で、3月5、6日に野村誠の音楽ツアーを開催する予定。十和田市内のピアノを巡る小旅行。

 

今朝、いきなり大雪の中、南部裂織保存会の方のお宅を訪問。昭和50年の保存会開始の頃は、リサイクルで織物をする伝統は途絶え、貧乏くさいと忘れられかけていた。そうした郷土文化を復興した経緯も聞かせていただく。また、20年以上調律していないピアノは、見事なホンキートンク・ピアノに変容しており、これはこれで味わい深く、ツアーの中で良い味わいを出すことだろう。

 

国指定文化財でもあるカトリック十和田教会には、懐かしいエレクトーンがある。エレクトーンでパイプオルガンをイメージしながら音色を選び教会で弾くと、すっかりオルガン奏者になったような気分を味わえる。神父さんから、賛美歌などの楽譜も見せていただき、ミサ曲の譜面を弾いたりする。バッハやメシアンや権代さんなど、教会の礼拝でオルガンを弾いた作曲家は数多くいるが、そうした先人たちの気持ちになって演奏できるのも嬉しい。神父さんからは、ツアーの時間外にも別途演奏の機会をつくれないか、とのご提案までいただき、教会の2階にもあがらせていただく。神聖で特別な時間。

 

その後、幼稚園でも4歳児クラスの教室にあるピアノを見せてもらう。子どもたちに歌を歌ってもらったりして、すぐ隣の教会とは全く違った空気感。

 

1454に行く。リサーチにずっと同行してくれている美術館の里村さんと、この3日間を振り返る打ち合わせ。4ヶ月前に、50歳になった時、彼女の企画で(他の美術館スタッフや美術館ボランティアの方々のサポートもあり)、ここ1454でパーカッショニストのエンリコ・ベルテッリとコンサートをした。あの時には、十和田の町の方々のエネルギーを感じ、また、いつか何かすることを予感と期待を持った。それが、50歳と4ヶ月になった今、その場所でカフェランチをしながら、今度は町の中に入り込んでいく企画を練り上げていることに、驚きを覚える。ツアーの経路、時間など、詳細がどんどん決まっていく。4ヶ月前には知らなかった人々、知らなかった町の風景。

 

美術館に戻り、美術館の鳴海さんも少し加わり、ツアー行程を確認。その後、里村さんと最終打ち合わせ。なんだか、10曲から成る小品集「ピアノのおうち」が書き上げられそうな予感。

 

大雪の中、バスで新幹線の駅を目指すが、除雪車ノロノロ走る道をバスもノロノロ走り、結局、バスは大幅に遅れて駅に着く。ダメかもしれないが、諦めずにバスから新幹線の改札まで猛ダッシュで駆け抜け、さらに駅員さんに事情を早口で告げ、切符なしのままホームまで駆け下りる。ちょうど出発直前の新幹線のドアが開いており、飛び乗るとすぐにドアが閉まって発車した。この新幹線を逃すと、京都まで帰れなかったので、ラッキー。

 

ということで、濃密な十和田滞在が終わる。人々の生活に密着したピアノ曲集が作曲できること、それは作曲家として喜びで、人々の生活の中にある楽器をそうした環境の中で演奏できることも、大いなる喜びだ。そして、そうしたことで、副産物として、人のつながりが生まれたり、十和田の町の魅力が浮き彫りになったりすれば、それも大いなる喜びだと思う。観光という単語は、光を観ると書く。英語でも、sight + seeingだ。でも、音を聴くこと、sound-listening=「聴音」という言葉も、同じ意味で使ってもいいのかもな、と思った。

 

十和田のみなさん、ありがとう。3月に再会を楽しみにしています。