野村誠の作曲日記

作曲家の日記です。ちなみに、野村誠のホームページは、こちらhttp://www.makotonomura.net/

十和田十景 no.6-no.10

「十和田十景」。十和田市現代美術館10周年企画。まちのピアノを巡るツアー。2日目。

 

午前中は、東コミュニティセンターに集うピアノサークル「ドルチェ」の方々との特別企画。ここのメンバーの方々に、今回のツアーの行き先を紹介していただいたそのお礼としてのミニコンサート。野村誠作曲作品より、「DVがなくなる日のためのインテルメッツォ」(2001)、ピアノのための21の小品「福岡市美術館」(2009)より「5.泰西風俗図屏風」、「9.仰臥裸婦」、「11.ゴシック聖堂でオルガンを聞いている踊り子」、「21.日光菩薩立像」、「相撲聞序曲」(2017)を演奏する。「相撲聞序曲」は、平先生と連弾させていただき、最後にみなさんのリクエストで、その場で小品を作曲して終了。これが、六景目。

 

午後、いよいよツアー二日目開始。ACAC(国際芸術センター青森)から懐かしい方が参加しに来られたり、八戸から来られた方や、十和田の地元の方、美術館ボランティアスタッフの方などの参加者。家族で参加で子どもたちも参加あり。

 

美術館でのジム・ランビーの作品での鍵盤ハーモニカ演奏は、昨日とは違ったアプローチで演奏。美術作品の鑑賞の仕方も、日によって違ったものになると思うので。

 

まず到着したお宅では、結婚してお嫁入りする時に、タンスを買わずにピアノを買ってもらった、というエピソードもいただき、ピアノを演奏。さらには、絵本の読み聞かせと音楽の活動もされているとのことで、その場で絵本の読み聞かせをお願いして、それに合わせてピアノを弾かせてもらう。七景目。

 

八景目は、ひかり保育園。中学校の先生を定年退職する時に、教会にオルガンを寄付されたという先生に、挨拶をいただく。実は、ツアー参加者の一人の中学1年の時の担任の先生。数十年ぶりの再会。思わぬドラマ。リードオルガンを演奏。その後、5歳児7名ほどが来る(4歳児以下はお昼寝)。ぼくは、「オルガンとピアノ、どっちを先に弾いてほしい?」と尋ねると、子どもの意見が分かれる。じゃあ、オルガンとピアノを同時に弾こう、と言って、オルガンをピアノのそばに移動。足踏みオルガンの足を踏みながら、右手でオルガン、左手でピアノ。なかなかやったことがないピアノとオルガン一人弾き。それに加えて、「オルガン、ピアノ!」と歌ったら、こどもたちも大爆笑。最後は、こどもたちに得意な歌も歌ってもらい伴奏もした。

 

九景目は、「生活感丸出し」と自称される方のお宅。新築の時にお母様が費用の一部を出していただき、子どもたちのために購入。子どもたちが大人になり、時々里帰りする時に、お孫さんたちも弾くピアノ。4世代の物語を演奏する。最後は、部屋の時計の音がメトロノームのようにピアノと共演。

 

ついに最後の十景目のお宅。こけしなどの民芸品もいっぱいの個人宅の音楽室。先ほど、中1時代の担任の先生に再会された方が、再び、驚きの再会。なんと、中2、中3での担任の先生のお宅であった。あまりの驚きの再会は、偶然の演出。

 

こうして二日間の「十和田十景」を作曲するためのツアーが終わる。このツアーの主役は、野村なのか、ピアノなのか、それとも人々なのか。それぞれのお宅の方々は、表向きは会場を提供してくださっている協力者であり、メインのアーティストは野村誠である。しかし、実際にツアーを行っていくと、それぞれの協力者の方々の物語を聞くことになり、野村の音楽もメインではあるけれども、同時にその方々のストーリーもこのツアーの主役だった。十和田の町の中で、こんな風に人々が思い、暮らしているのだ、ということを感じられる2日間だった。その体験のエッセンスを、短いピアノ曲10曲にまとめるのが、ぼくに与えられた宿題。これからの日々、十和田のことを思いながら、少しずつ書いていきます。