野村誠の作曲日記

作曲家の日記です。ちなみに、野村誠のホームページは、こちらhttp://www.makotonomura.net/

EU離脱3部作の第3作

イギリス、ヒューの家。エディンバラからキランが泊まりに来ている。彼と会うのは、1995年にリーズとハダスフィールドでコンサートして以来だから、24年ぶり。懐かしく嬉しい。キランはベーシストだが、今回のコンサートではドラムセットを演奏することになっている。

 

ジュリアンの紹介で以前ウィグモアホールで、コミュニティプログラムのディレクターをしていたアーシュラが訪ねてくる。彼女は、認知症の人との音楽プログラムなど、12年間に渡って、様々なプログラムを立ち上げた。色々話してみると1995年−2000年にかけてヨーク大学の音楽学部で学んだらしい。ぼくがヨーク大学にいたのが94年から95年なので、ぼくがヨークを去った直後に来たのだ。世界は狭い。特に、ぼくと日本センチュリー交響楽団の関わりに興味を持ってくれて、いろいろ話をする。

 

イギリスは、EU離脱を明日に控えている。昨日も議会でEU離脱に関する8つの案が提出されて、いずれも否決される。政府も議会もEU離脱の未解決なトンネルの中で、他の機能が完全に麻痺している。明日は、ヒューのEU離脱3部作の第3作「Glad Friday」が演奏される。ヒューは、辞世の句を集めた本を読んで、その中で、「katsu」という言葉に興味を持ち、今回の新作にも取り入れたと言う。喝を入れるの「喝」。江月宗玩の辞世の言葉が、「喝、喝、喝、喝」というもので、これは一体何だ?とヒューに聞かれる。調べると「臨済四喝」というものがあり、喝にもいろいろあると言う。

 

その後、明日のライブ会場であるLucky 7 Clubに楽器や機材を運び込み、セッティングの後、コーラルエンジニアズのメンバー22人の歌、キラン(ドラム)、野村(鍵盤ハーモニカ/鉄琴)、ビリー(ベース)、ヒュー(指揮/キーボード)でリハーサル。明日には、これに、エマ(ヴァイオリン)、エリック(ヴァイオリン)、ディーン(ファゴット)、リサ(クラリネット)、クリス(トランペット)、フランク(クラリネット)などのメンバーが加わる。

 

合唱と言っても、歌うだけでなく、ビール瓶を吹いたり、とんぼになったり、アクションやシャウトや色々なことがあり、映像が曲間に入る。普通の合唱団じゃないので、一度参加して違うと思った人は、別の合唱団に移っていく。明日は、EU離脱と同時に、この合唱団の最後のコンサートになる。

 

それにしても、このコンサートは何の助成金もなく、遠方から集まるゲストもギャラもなければ交通費も出ない。なのに多くの人々が参加しにやってくる。ヒューの人望。ぼくは、運良くパリの予定と、ペンザンスの予定の間にうまく来ることができた。よく考えると、会場はペイントンにある。ParisとPenzanceの間にPaigntonに寄った。全部、Pだ。いよいよ明日は、天才ヒュー・ナンキヴェルの真骨頂を体験する夜になる。

 

明日のコンサートは、第1部Gladが、今回の新作でEU離脱3部作の最終作品。約1時間。第2部Fridayは、Choral Engineersの過去4年間のレパートリーを歌うコンサートで約1時間。最後に、ヒューの息子のフランクがDJをする。

 

 EU離脱をテーマにした第3作。2年前の第1作の時は、EU離脱のことで人々が対立した状況が本当に切実だった時期で、実際に、2極分裂に対して、3角形(トライアングル)を訴える作品だった。2年経った今回の作品は、この4年間をどう清算するのか、これからどうしていくのか、移行(transition)がテーマの作品。