野村誠の作曲日記

作曲家の日記です。ちなみに、野村誠のホームページは、こちらhttp://www.makotonomura.net/

エンリコとの最終ワークショップ

ホテルをチェックアウト。今日は、エンリコとのワークショップの今回の最終回。Wentworth Primary Schoolにて、ワークショップ。昨日までのプログラムと同様。同じプログラムだが、子どもが違うと内容が変わってくるし、学校にある楽器が違うと、音楽も違ってくる。今日の学校は、ピアノがない学校だが、打楽器の種類が豊富にある。今回行った学校の中で、最も多い。エンリコは、それらの打楽器を次々に棚から出してくる。打楽器奏者というのは、楽器をたくさん運ぶことを苦にしない人種だ。
今日は6年生14人。昨日の5年生24人に比べると、1クラスの人数が少ないので、いろいろやりやすい。
エンリコと二人で即興演奏の披露。様々な打楽器を駆使しての即興。毎回、自分たちが新鮮に感じられるように即興演奏をしたいので、こうして、連日、複数回、同じ二人で即興演奏をし続ける機会が与えられるのは、楽しみであると同時に、鍛えられる経験でもある。
演奏を聴いて、子どもたちは、ミステリー映画のシーン、風、寺院、夜、など、様々なことを思い描いたと言う。
続いて、こどもたちにキーワードをもらって、エンリコと野村で再度即興演奏をする。子どもがくれたキーワードは、water, Christmas, hurricane, toetippingだ。Waterでは、スチールドラムの中でピンポン球を転がすこともできた。クリスマスでは、鉄琴の響きを楽しめたし、ハリケーンは激しいフリー即興。「つま先立ち」では、様々なスタッカートを味わうこともでき、次第にこれらの要素が融合していく即興演奏になった。キーワードが与えられることで、演奏に違ったとっかかりができるのが面白い。
今度は、こどもたちが、キーワードに従って演奏する番だ。最初のキーワードは、treeだった。木のイメージで、鉄琴のグリッサンドを考えた子ども、リズムを作った子どもがいて、それを組み合わせて合奏する。続いて、bookというキーワードを与えた。なぜなら、日本語で漢字にすると、tree(木)に一本加えるとbook(本)になるからだ。子どもの考えたのが、本をパタンと閉じるように楽器を合わせること。この奏法ができる楽器を子どもたちが選び、楽器は本になった。
3番目のキーワードは、bounceで、跳ねるリズムが考えられるかと思いきや、あんまり弾まないが結構複雑なリズムが子どもより提案された。そこで、これを覚えやすいように、言葉をあてはめる。Wentworth loves Elephants.というリズムになった。
最後に、日本語を入れる。「どうしたの?」という日本語を教えて、Do shita no?と書くと、大慌てで、エンリコが間をあけずに、つめてくれ、と言う。エンリコ曰く、Do shit(クソする)と読めると子どもが気づいたら、大騒ぎになると思ったので、Doshitanoと書き直した、とのこと。どうしたの?は、Do shit a no.と読めるのか。
「どうしたの」というやさしいメロディーを子どもがつくり、それをみんなで合奏。
その後は、ホールがランチの準備でテーブルを並べなければいけないので、教室に移動し、そこで、野村の仕事のプレゼンをした。現在、第1次世界大戦のことを集中的に学んでいるらしく(おそらく、100周年だからと推察)、教室に兵隊の図柄や戦争の写真などが、あちこちにある。教室中が戦場をイメージさせる環境になっている。この環境で、算数も英語も理科も勉強しているのか。各自の机の上に、戦争の写真がある。この教室にしばらくいるだけで、気分が滅入ってくる。戦争博物館とか虐待博物館とか原爆記念館などに出かける時には、それなりに覚悟していくし、そこに常時いるわけではない。戦争博物館のような教室で学び続けている子どもたち。学校はこどもたちにとって、戦場なのか。ぼくらが来て、教室からホールに移動して音楽をすることが、彼ら/彼女らにとって、少しでも救いになればいいな、と思った。
職員室でお茶をすると、指導法の面白い本が何冊かあった。喋り過ぎない教え方の本。本当に怠惰な先生のための教育法、という本。ちょっとユニークな教育法の本が置いてある。
ランチの後は、教室で各自でウェブサイトづくり。その後、ホールに移動してリハーサルの後、全校児童と保護者を招いてのアッセンブリーで、ミニ演奏会。野村誠作曲の「Slapping Music」と「鍵盤ハーモニカ・イントロダクション」を上演の後、エンリコと野村の即興、そして、こどもたちとの共同作曲の発表。
これで、エンリコとの4日に渡る小学校のワークショップのセッションが終わる。
電車を乗り継ぎ、道中にエンリコからプロジェクトの振り返りインタビューを受け、今後の可能性などについても語る。ロンドン市内に戻り、エンリコ宅に着いたのは、夜8時。夕食の後、鹿倉さんの三味線演奏を聴く機会にも恵まれ、その後、エンリコとのイタリアでのセッションや淡路島でのセッションのビデオを見たりする。