野村誠の作曲日記

作曲家の日記です。ちなみに、野村誠のホームページは、こちらhttp://www.makotonomura.net/

ロザラムのワークショップ2日目

ロザラムでの2日目は、Swallownest Primary Schoolへ。昨日と同様のプログラムでのワークショップだが、今日は5年生。ここの学校は、面白いことに、クラスごとに国名がついている。1年生がフランス、2年生がギリシャ、3年生がエジプト、4年生が日本、5年生がオーストラリアで、6年生がブラジル。1−2年はヨーロッパで、3年でアフリカ、4年でアジア、5年でオセアニア、6年で南米と世界を一周できるクラス名。今日のワークショップは、オーストラリア。学校に唯一あるピアノは、鍵盤が謎の粉で汚れまくっていて、まずは、ピアノの鍵盤をクリーニングしないと演奏すらできない状態だ。よほど長年使われていないのだろう。鍵盤を掃除していると、サティの「グノシェンヌ」のように聞こえたようで、エンリコがサティを鼻歌で歌う。サティも、汚れたピアノの掃除から、グノシェンヌを思いついたのかもしれない。
エンリコと野村での即興演奏で、ワークショップは始まる。子どもたちは、ぼくらの即興演奏から、嵐、海、エジプト、など、様々なイメージが浮かんだようで、それを絵に描いてくれる。このワークショップの前半は、ぼくとエンリコの即興演奏で、それを鑑賞し、子どもたちは色々なイメージを浮かべる。続いて、子どもたちからpink, red, blossom, blueというキーワードを与えられて、それに基づいて、エンリコと野村で即興演奏。
その後、野村とエンリコからキーワード(nest, test, whisper, arigato)を与えて、Swallownest storm & thunderという新曲ができる。昨日と違って、今日はクセナキスとは違って、最初からいろんな楽器を組み合わせた。最後に、1年生を教室に招いて、発表した。昨日と同様、野村誠作曲の『Slapping Music』『鍵ハモイントロダクション』も演奏したし、野村とエンリコの即興演奏も披露した。
実は、1年生に混じって、特別支援学級の子どもが来ていたらしい。特別支援学級の先生がランチタイムにやって来て言った。「自閉症の子どもたちで、音を嫌って耳を塞いだり、その場にいられないことが多いのに、あんなに集中して聞いた」と、教室に戻った後に、ボディパーカッションの真似をして、いろいろ試していた様子を興奮して報告してくれた。そういう話を聞くと、わざわざイギリスまで来た甲斐があると思う。
午後、オーストラリアの教室に来ると、全員が読書をしている。毎日食後に読書の時間が設定されているようだ。その後、出席をとると、「グッドアフタヌーン、マイケル」とか呼ぶと、「グッドアフタヌーン」と答えていた子どもたちが、途中から、「コンニチハ」と返事していた。いい時間だ。
午後、(おそらく)急に全校アッセンブリーの時間が設けられ、野村とエンリコのミニ演奏会が行われた。演奏が終わったら、各クラスに戻っていったので、演奏を聴くだけのために急遽集会を設定したのだろう。
その後、野村の30分のパワーポイントプレゼン。小学生に向けてプレゼンするのは、難しい単語を使えないのと、話が面白くないと集中力が続かないので、とてもいい経験になる。動物との音楽の話など、凄く集中して聞いてくれる。
その後、コンピュータ室に移動。子どもたちは、ぼくの話と今朝のワークショップ体験を作文して、ウェブサイトにアップしていく。
二日目のワークショップもこんな風にして終わっていった。ホテルに戻り、サウナとプールを楽しんで後、エンリコと夕食に出かける。エンリコは言う。5年先まで計画を立てるべき、という人がいるが、5年後のことを、どうやって予測できるのか。世の中や状況の変化に対応できる柔軟性/即興性の重要さが軽視されているのではないか。エンリコはヨーク大学の博士課程に入学した時に書いた研究計画と全く違う研究をしたとのこと。ヨークに来るまで、打楽器とエレクトロニクスで何かをする発想がなかった。ところが、ヨークに来て、ラデックというエレクトロニクス作曲家と出会って、面白いと思い、研究計画を大転換して、エレクトロニクスと打楽器の研究にした、と言う。つまり、そこに面白い人がいたから、研究内容を変える柔軟性があった、ということだ。エンリコは、ぼくと出会ったから、即興演奏をするようになった。非西洋の国々にツアーするようになった。そうした柔軟性が、彼の世界を拡大させている。5年後のエンリコが何をしているのか、彼にも予想がつかないし、ぼくにも予想がつかない。彼は、次なる展開を探しているのだろう。