野村誠の作曲日記

作曲家の日記です。ちなみに、野村誠のホームページは、こちらhttp://www.makotonomura.net/

ディックの参加型パフォーマンスの会

今日が香港に来て46日目。91日の滞在のちょうど折り返し地点。半分が過ぎたということで、だんだん終わりが見えてきました。91日で香港に二度と来ないわけではないので、焦る必要はないのですが、とりあえず、この3ヶ月間で自分が納得できるところまではやりたい、と思うのが、アーティストの性でして、ということで、創作の下地を今のうちにどんどん整えないと、時間切れになるので、この1週間が勝負所と考えております。

ということで、今日は、「點心組曲」の第6楽章までの、ここまでの創作の経緯を英文で記述しておりました。だいたい、このブログを参考にしつつ、記憶を頼りに、書きました。書いていると、色々、アイディアが思いつき、いい傾向。明日は、もっとできるかな。

ということで、今日は、i-dArtのアートコースの先生でもあるディックのパフォーマンスを観に行きました。ディックはこのパフォーマンスを午後2時から7時までやるから、6時頃に来い、と言う。全然、意味が分からなかったが、言われた通りに6時に行くと、野外の階段を上半身裸で、裸足で歩いているディックがいる。パフォーマンス中だから話しかけてはいけないのか、と思いきや、向こうから話しかけて来るが、ぼくのところで立ち止まらずに、階段を降りていき、また、登ってきて、また降りて行く。何しているのか、と思うと、延々と上ったり降りたりしていて、下と上に、大きな紙が置いてあり、その上を歩いたあとが、汚れていて、徐々に紙に模様ができていく。歩くドローイング。そして、途中で雨が降ったためにできた水たまりの上を歩くことになるので、それも、このドローイングに影響する。ここは、一般の人が上り降りする階段なので、そうした人が怪訝そうな顔で見ないふりして通り過ぎたりもする。

上のスタジオで別のアーティストのパフォーマンスをやっているから、そっちに行くように誘われ、ディックのパフォーマンスの途中で、スタジオに移動。また、例によって、ビルの9階の一室に、隠れ家のようにアートスペースがある。そこで、3人のアーティストのパフォーマンスがあるらしい。と思いきや、一人のダンサーは、遅れてくるので、まだいない。一人の映画監督のパフォーマンスは、一人ずつ体験なので、今は無理。もう一人のアーティストは、今日は海外に出かけるので参加できず、空港でとった映像を、会場で流すことでの参加。なんだーー、今、ぼくが見られる作品ないじゃない!

で、しかも、観客席とかがあるわけでもない、単なるフラットなスタジオで、イスも数脚しか置いてないし、どこに居場所をつくっていいのやら。それで、この企画のキュレーターのおじさんから、「ああ、これは、複数のアーティストが、それぞれのことをしながら、どうやってコラボレートしていくかの相互作用の実験で、参加型だから、演奏しても、絵を描いても、何してもいいです。」と無責任なことを言われる。でも、みんな知り合い同士で立ち話。合計20人くらいの人。

で、仕方ないので、「點心組曲」第5楽章の「静かな五重奏」で、部屋の中を動き回ったみたいに、部屋の中をうろうろしては、壁を叩く、という行為を延々してみる。そうしていくうちに、色々な物や人と出会って、気がついたら、ぼくは、パフォーマンスに参加していた。というか、完全にパフォーマンスの口火を切っていて、みんなが徐々に参加してきた。で、そうしたパフォーマンスが展開した後になって、ディックがやってきて、床の上に白い粉をばらまき、自らお白いアーティストになり、床を歩いたり、白い粉に関わることで、床に絵画ができるし、そのことで、パフォーマンスの参加がさらに促される。

その後は、ダンスする人、奇声を発する人、色んなことが起こった。鍵ハモは念のために持って行っていたので、鍵ハモも吹いた。香港の人々と即興大会ができたのは、良い経験。

これが8時半頃に終わって、そこからディスカッション。これが、延々と10時まで続く。親切に英訳してくれる人がいて、ディスカッションまでみっちり参加。ディスカッションの終わりに、「マコトさん、今日、参加してみてどうでしたか?」と感想を求められ、ぼくが、色々話したところでもって、今日の会は終了。なんだか、ぼくが口火を切って、ぼくが閉めの言葉で、本当に参加させられたなー。来月も参加しに来ようかな。

https://participatorytheatreproject.com/

帰り道は、研究者のナンシーと語り合いながら帰る。中国から香港に来て5年の彼女は、i-dArtでのディックのクラスを観察研究もしているので、i-dArtJCRCについても、外からの視点で見れるし、香港についても外からの視点で見れる。そういう彼女と話せたことも大きかった。彼女によると、昨日のディックのアートのクラスでも、前日のセッションの名残で、ずーっと「マコト、マコト」と歌い続けていた人もいたらしいし、普段の授業では活躍が難しい人が、音をきっかけに活躍の場ができたり、様々な影響が出ている、と教えてくれた。あと、i-dArtの活動に関心を寄せる美術家が非常に少ないこと。そして、i-dArtの活動に関心を寄せ、作品制作をしたいと提案してくる数少ないアーティストに対して、交流を持つのではなく、障がい者の表現を自分の作品に利用するのではないか、と懸念し警戒することで、ますます、美術家とi-dArtの接点を持てるチャンスが減る可能性がある。そこには、様々な葛藤があると思う。などなど、色々な話をできてよかった。