野村誠の作曲日記

作曲家の日記です。ちなみに、野村誠のホームページは、こちらhttp://www.makotonomura.net/

アナン・ナルコンとの再会

今日は、いよいよSampreang Facestreet Festivalの初日です。何せ、タイ全土から、様々なコミュニティアートプロジェクトが集まってきて、この地域一帯の路上に溢れ出る大掛かりなフェスティバルなのです。ランタンの灯りやら、ストリート演劇やら、そして数々の出店も出ています。この時期のタイは、一年で最も涼しい時期で、日中で30度程度で、夜は24度くらいまで冷え込みます。野外で過ごすのが楽しいわけです。

地元の高校生のボランティアで150人動員されていて、舞台監督はプロだけれども、その下で動くスタッフの多くは高校生。様々なスタッフで育った高校生が後にプロになって、スタッフとして戻ってくることもある。舞台監督のゴイさんは、かつては高校生のボランティアとして参加したらしい。

本番の会場が急遽変更になった。なんと、通行止めにして、歩行者天国にして本番の会場になるはずの場所が、急に警察がダメと言い出して、使えなくなったと言うのだ。ソーさんによれば、警察には事前に許可もとっていたのだが、急に今日になって、やっぱりダメだ、と言う。よって、急遽、別のステージで行うことになった。そのため、7時と8時の2回本番をするつもりだったのを、7時の一回だけになると言う。

大通りのフラットな場所でやる予定で準備したパフォーマンスなのに、ステージでやることになり、しかも、ステージのサイズが小さい。仕方なく、ステージ上と、ステージ下で、やれるように、アレンジし直すのだが、これが、非常に厄介。音響的にも動き的にも大変だが、限られたリハーサル時間で、最大限のことをチェックし、修正する。

親友のアナン・ナルコンと連絡がつく。先週に日本に行っていたかと思ったら、明朝フィリピンに飛んで、フィリピンと韓国で、アジアの笛を大結集するフェスティバルをするらしいのです。だから、今日が唯一会えるチャンス。民族音楽学者で、本当に魅力的な音楽家でもあるアナンとは、9月にフィリピンで会って以来の再会。

今回、ぼくが一緒に活動したヨードさん、チャーンさんらが、小学生くらいだった頃に、アナンが人形劇の音楽をした時に、アナンは、ヨードさんやチャーンさんを教えたのだそうです。そのヨードさんやチャーンさんは、今は子どもたちの面倒をみている。こうして、色々なサイクルで循環していく。

アナンと道を歩くと、色々な人が挨拶してくる。「あ、こちらは、タイの文化省の国際交流関連の担当の偉い人。彼女に言われて、ぼくは明日からフィリピンに行くんだ」と紹介されたり、音楽家だったり、人形劇の人だったり、道行く人が、皆、アナンに挨拶をする。ステージの上にいる人が、アナンを見つけて会釈する。彼は、本当に、多くの人々を育て、影響を与えてきた人であることが分かる。

先週は、脳卒中で麻痺してしまったラナート(タイの木琴)の名手の人のためのイベントを開催したとのこと。我々くらいの年齢で、タイのトッププレイヤーだったが、半身麻痺してしまい、そのためのチャリティをやったとか。アナンは、「ぼくだって、こんなに忙しく飛び回っているから、いつ倒れてもおかしくない」と言う。いつまでも長生きして、100歳記念を一緒にやろう、と言うと、「いやぁ、最長で60歳が人生だ。」と本気だか冗談だか分からないことを言う。アナンは、実際には、もっと長く生きると思うし、長く行きて欲しいと思う。と同時に、人生60年と思ったら、残り10年もないことになり、残された時間を精一杯活用しよう、と思うのかもしれない。そんな気持ちで、アナンは、こんなに世界中を駆け巡っているのだろうな、と思うと、そのことも愛おしくなる。そして、「今度、ぼくたち、いつコラボレーションする?早くしないと、みんな年とって、動きたくても動けなくなるよ」と言う。アナンと一緒に音楽をできる掛け買いのないチャンスを、準備していこうと思う。

逆に、まだまだ若々しく活発に活動されている大先輩の箏曲家の沢井一恵さんの話をした。1月に、竹澤悦子さんとのコンサートに、ゲスト出演してもらう。そんな話をして、アナンやぼくらも、先輩たちに負けないくらい元気で長生きして、後輩たちに、もっともっと刺激を与え続けていきたい、と思う。

そして、本番になった。あの田舎の村の子どもたちが、バンコクの大都会で、大観衆の前で上演して、さぞかし緊張しただろうし、やりにくいこともいっぱいあっただろう。こどもたちは、すごくかたくなっていたし、普段通りでなかったことは間違いなかったけれども、でも、精一杯のパフォーマンスをしてくれた、と思う。

明日、もう一回、本番がある。警察の許可がおりるかどうかで、会場が変更になるのか、当初の計画通りになるのかが、決まる。そして、この子どもたちと一緒に過ごせる時間も、もう明日だけになった。明日の本番の時間を、できるだけ、子どもたちやヨードさん、チャーンさんと、味わい尽くしたいと思う。

アナンと別れ。いってらっしゃい、フィリピンへ。そして、近い未来に、また世界のどこかで会おう。