野村誠の作曲日記

作曲家の日記です。ちなみに、野村誠のホームページは、こちらhttp://www.makotonomura.net/

ライヒとブライヤーズ

Enrico Bertelliの紹介で、Queen Mary University of LondonのAndrew McPhersonjを訪ねる。Magnetic Resonator Pianoという彼の考案したピアノを体験しに行く。

http://www.eecs.qmul.ac.uk/~andrewm/

ピアノに何かを取り付けて成功した例は、ジョン・ケージプリペアド・ピアノ。弦にボルトやネジやゴムなどを挟むことで、ピアノの音色は変調する。それ以降、シュトックハウゼンの「マントラ」のようにピアノの音色を電気的に変調したり、ということは、色々試みられたのですが、プリペアドピアノのような発明にはなかなか出会うことがなかった。今回のアンドリューのMagnetic Resonator Pianoは、ピアノの鍵盤を操作する様子をセンサーで感知して、その信号がピアノの各弦に近接させた磁石に送り、磁石によりピアノの弦を振動させることにより、ピアノ本来を音色を保ちつつ、鍵盤を演奏し続けることにより、弦を振動させ続けるロングトーンを可能にするという仕組みのもの。スピーカーなどを使わず、ピアノ自体を鳴らす。

で、実際に演奏してみると、これが、ピアニストにとって、画期的なことが多く、このピアノを演奏することでしかあり得ない奏法が色々と発見されるのだが、野村がこの20年間に試みて来た様々な試み(白井剛との「Physical Pianist」、鍵盤ハーモニカの様々な奏法、ヒュー・ナンキヴェルとの「キーボード・コレオグラフィー」、上野泰永との「ピアノの本音」、トイピアノガムラン、瓦の演奏、ほか)が、全て反映できる。

と同時に、Magnetic Resonator Pianoへの順応の速さに、アンドリューは驚き、多くのピアニストはすぐには適応できないし、戸惑うとのこと。ビデオに撮りたい、録音したい、とのことで、急に撮影/レコーディングが始まる。これは、いつか日本でも紹介したい。

その後、スクラッチ・オーケストラ(1969-1974の伝説的な音楽集団)の創設メンバーで作曲家のMichael Parsonsを訪ねる。今日からマイケル宅に滞在。78歳になっても健在の実験音楽の巨匠。今日、ぼくは、ロイヤルフェスティバルホールでのロンドンフィルによるGavin BryarsSteve Reichのコンサートを聴きに行くことにしている。マイケルは、ギャビン・ブライヤーズの「Jesus' Blood Never Failed Me Yet」の初演(1972年)でヴァイオリンを演奏したよ、とか、1972年にスティーブ・ライヒが初めてイギリスに来た時に、ベルリンやスペインなど、一緒にツアーして、「ドラミング」を演奏した。その時、ギャビン・ブライヤーズ、コーネリアス・カーデュー、マイケル・ナイマンと一緒にツアーしたなぁ、と言っていた。ぼくは、1994年に初めてマイケルの家に泊めてもらって以来、彼の家に数えられないほど泊めていただき、色々な話を聞いている。イギリス実験音楽について、これだけ話を直接聞いた唯一の日本人かもしれないので、ぼくが、これを日本の人々に伝えていくのは大切なのかもしれない。

その後、ギャビン・ブライヤーズのプレコンサートトークを40分じっくり聞いてから、コンサート。ジャズベーシストとして出発し、アメリカでケージやフェルドマンに出会いアメリ実験音楽を吸収し、イギリスでは非専門家ばかりの実験的オーケストラポーツマスシンフォニアを結成し、そのメンバーだったブライアン・イーノのレーベルから、「タイタニック号の沈没」と「Jesus' Blood Never Failed Me Yet」のアルバムをリリースし、フォーサイス他のダンスの音楽をし、様々なシンフォニーなども作曲したイギリス実験音楽、ポストミニマル音楽の代表的な作曲家。今日は、その伝説的な初期の2作品「タイタニック号の沈没」と「Jesus' Blood Never Failed Me Yet」が、創作から45年の歳月を経て、ロンドンフィルにより演奏される。コンサートの後半は、ライヒの「Music for 18 musicians」。アメリカのミニマルミュージックを代表する作曲家ライヒの1976年の作品も40年の歳月を経て、こうしてロンドンフィルのメンバーが演奏し(40年前には、ナイマン、カーデュー、ブライヤーズ、パーソンズというイギリス実験音楽の作曲家が演奏していた)、それを若者も随分多く来ているかなり満席に近い客席の80%くらいの人々がスタンデゥング・オベーションで大喝采。ぼく自身は、ブライヤーズ、ライヒという先輩作曲家から、多くの影響を知らず知らずのうちに受けているし、今日、作品を聴くことで、色々と自分自身の特色や進む方向について、刺激をいただいたので、感謝です。終演後、ギャビン・ブライヤーズに声をかけて話をしようと思ったのですが、人が多く、見つけられず、話すことはなく、マイケル・パーソンズのお宅に帰って来ました。

マイケルの本棚で薦められたアルヴィン・ルシエの本などを少し読んで後、就寝。

Music 109: Notes on Experimental Music

Music 109: Notes on Experimental Music