野村誠の作曲日記

作曲家の日記です。ちなみに、野村誠のホームページは、こちらhttp://www.makotonomura.net/

マイケル・パーソンズ

ロンドンでは、ワークショップ期間中は、主催者の用意したホテルに泊まっておりましたが、仕事が終わった後、知人宅に泊めてもらっています。マイケル・パーソンズは、1938年生まれの作曲家で、1969年にコーネリアス・カーデューらとスクラッチ・オーケストラを結成し、イギリス実験音楽を代表する作曲家の一人です。ぼくは、イギリス留学中の94年から、時々、マイケルの家に泊まりに行き、音楽について語り合ったり、お互いの曲を聴かせ合ったりしてきました。彼の手書きの楽譜は、本当に愛らしい筆致です。ピッチが決まっていない「リズミック・カノン」や「ペンタコーダル・メロディー」などは、シンプルなアイディアで、複雑な音響を生み出しますし、自分の専門領域を狭く固定せずに、ブルースやスコットランド民謡やジャマイカの歌をピアノ曲に編曲しますし、野外で演奏する「エコー・ピース」や歩き方の法則性を定めた複数のダンサーで上演できる「ウォーク」、さらには、フィンランドのアマチュア合唱団のために作曲した美しい合唱の数々。原発事故の話をすると、イギリスのセラフィールド原発事故の後に、原発周辺で癌の発生率が上昇したことや、それに対して因果関係を政府が認めなかったことなども、教えてくれた。マイケルは、週末のコンサートで、クリスチャン・ウォルフのピアノ曲を演奏すると、クリスチャンの手書きの楽譜のコピーを見て、練習していました。クリスチャンが×をつけて取り消した部分を、「ここもいいんだ」と言って、弾いてくれたりしました。彼は、常にポジティブで、人を応援するエネルギーを持っています。70代の今も、作曲に演奏にアクティブな彼の作品を、いつか日本でまとめて紹介したいと思うのです。