野村誠の作曲日記

作曲家の日記です。ちなみに、野村誠のホームページは、こちらhttp://www.makotonomura.net/

とつとつダンス

大阪のアートエリアB1で、とつとつダンス「愛のレッスン」というパフォーマンスを観ました。「愛のレッスン」というタイトルを聞くと、20年前に見たDumb Typeの「S/N」のことを思い出しました。あの「S/N」も、愛についての作品でした。

実際に鑑賞したところ、S/Nも、命をかけて公演を続ける古橋悌二さんの存在があったわけですが、この舞台に出演している舞鶴特別養護老人ホームの岡田さんは、命をかけて出演しているのだろう、と思いました。舞鶴介護施設に入居しておられる方が、大阪まで公演に来られて、さらに、東京、仙台でも公演。体力的にも精神的にも、とんでもないことに挑まれているのだ、と思いました。

そういう意味で、「とつとつ」というワークショップから出発しているのでしょうが、この公演に対する岡田さんの意気込みは、「とつとつ」ではないのかもしれません。この舞台は、本当に「とつとつ」と呼んで良いのでしょうか?「とつとつ」という言葉で良いのかなぁ。岡田さんの覚悟と対峙する覚悟などなく、ぼくは舞台を観に来ました。

愛とは、何か。どこまで相手の領域に介入していくのか。どこまで相手の領域に敢えて介入せずに見守ったりするのか。コラボレートとは、愛なのか。ぼくも観客として、愛のレッスンに参加できたはずなのですが、そうなって来ると、音楽で関与したくなる自分がいました。でも、ぼくは観客で傍観者なので、黙ってブックレットの文字での説明を読んでいるうちに、言語の世界に溺れます。気がつくと冷静な傍観者になっていました。アフタートークで質問をした観客の女性は、感極まって泣き出しました。彼女は愛のレッスンに当事者として深く参加できていたのだなぁ、と羨ましく思いました。