野村誠の作曲日記

作曲家の日記です。ちなみに、野村誠のホームページは、こちらhttp://www.makotonomura.net/

大阪音大特別講義「地域社会と音楽を結ぶ活動 -- 作曲家×オーケストラの実践」

大阪音大での特別講義。「地域社会と音楽を結ぶ活動 -- 作曲家×オーケストラの実践」というタイトルで、2コマの講義をして参りました。大阪音大の井口淳子教授が企画して下さりました。ぼくは今年の4月より、日本センチュリー交響楽団のコミュニティプログラムディレクターをしており、オーケストラと地域社会を結ぶ活動を創出していくのが、仕事となっております。

また、センチュリー交響楽団の拠点が、豊中市にあるため、豊中市でのプロジェクトを行いたいと思った時、豊中には、大阪音大があり、大阪大学があるではないか、と思いまして、この2大学と連携しながら、プロジェクトをできないものか、と考えております。本日は、そうしたことも踏まえて、講義に。ピアノ専攻、声楽専攻、作曲専攻、音楽学専攻、サックス専攻の学生が参加。意外なことに、オーケストラに就職する可能性のある楽器の学生が全然来ていませんでした。また、学部からの見学で、他大学の大学院生、研究者、オーケストラの事務局、音楽プロダクションの方なども来られておりました。

4〜7月に行ったThe Workというプロジェクトでも、就労支援のNPOとオーケストラがタッグを組んで、失業中の若者と楽団員によるコラボレートを行い、その音楽的な交流を、作曲家である野村が担当しました。この時は、交流/音楽創造の場が濃密であれば、その影響で、若者の就労支援になり得るのではないか、という仮説に基づき、行いました。野村は、そうした裏の意図を敢えて考えずに、共同作曲の手法による音楽創造に専念しました。そんなうまい話があるのかどうか半信半疑でしたが、実際の結果としては、参加メンバーの数名がプロジェクトを経て、就職が決定しましたし、引き蘢りがちで外出が困難だった人が、外出ができるようになるなど、様々な点で顕著な変化が見られたそうです。もちろん、楽団員や野村自身への影響も大きかったと思います。

今年度の後半は、毎月1回、野村誠豊中の庄内にやって来て、音大生、オーケストラの楽団員もやって来て、市民の方々と集い交流する場を持ちます。この場を継続していくと、どんな相互作用が生まれるのか、大変楽しみなのです。もちろん、ぼくは、そうした影響を与えようと意図するのではなく、ただ同じ場にいて、言葉や音楽で交流しながら創作する活動をリードします。共に音楽をつくることに専念します。この創造の場が、濃密であり豊かであれば、そのことが間接的に、音大にも、オーケストラにも、行政にも、影響を与え、現状の様々な問題の解決に、間接的に役立つ、という大胆な仮説に基づき、プロジェクトは計画されています。今回は、さらに、こうした音楽創造のプロセスを経て、どのような効果が得られるのかについて、阪大の大学院生さんなどの協力も得て、検証していこう、という試みも計画されています。

21世紀の日本のオーケストラの仕事を、新たに創造していくわけですが、考えれば考えるほど、色々な可能性があるわけです。そして、作曲家は、コンサートピースを作曲する以外に、練習曲も作曲するわけですが、こうしたプロジェクトを遂行するための音楽、人々の交流を促進するための音楽を作曲するのも、21世紀の作曲家の仕事になり得ます。センチュリー響とのプロジェクトを通して、「交流曲」、「公共曲」、「共有曲」とでも言うべき作曲のジャンルを切り開いていくこと自体が、現代の作曲家の仕事の一つであり得るだろうと、講義を経て思いました。

講義の後半では、音楽博物館にあるバリガムラン、タイの伝統楽器(ピパット)、スチールドラムなどを、学生達に簡単なルールによる即興で演奏してもらいました。ピパットもガムランも、「千住の1010人」に登場するのだなぁ、と思うとワクワクしましたし、3年度に庄内でも、こんなことが実現可能なのだろうか、と夢想しました。豊中は、これから始まります。