野村誠の作曲日記

作曲家の日記です。ちなみに、野村誠のホームページは、こちらhttp://www.makotonomura.net/

狂った虱の音楽

京都にて、吉田省念くん、植田良太くん、やぶくみこさんとリハーサル。明日のライブ「黄金の館」に向けてです。場所は、九条山にある省念くんのスタジオ。ここに来るのは、20数年ぶり。かつて、ぼくが大学生だった頃、省念くんのお父さんで現代美術家のヨシダミノルさんと知り合い、こちらのお宅に何度かお邪魔させていただいたのです。「大空アート美術館」とか何とか言う名前の私設ギャラリーで、コンクリートの打ちっぱなしの建物が、21歳のぼくには不思議に居心地が良い場所でした。具体美術協会に参加し、その後ニューヨークに移住しパフォーマンスを展開。フルクサスなどニューヨークでのハプニング、パフォーマンスアートについて、ミノルさんを通して多くのことを、ぼくは学びました。



1989年の大晦日、ここで「90年代へのマニフェスト」というイベントがあり、ぼくもピアノの即興演奏をしました。その時に出会った絵描きさんと会話するようにピアノを弾いたことは、その後の自分の人生にも大きく影響を及ぼしたように思います。藤井景化さん、向井千恵さん、上沼正道さん、奥田扇久さん、井筒和弘さん、荒木みどりさん、といった大人達から野村くん、野村くんと、可愛がっていただいたあの時代があって、今のぼくがあります。ミノルさんは、単なる大学生のぼくが、90年に京都芸大でのグループ展でパフォーマンスをした時も、観に来て下さりました。90年の12月からニューヨークに3ヶ月滞在する際は、ミノルさんから多数のアーティストをご紹介いただきました。その時でも、22歳の若造に向かって、なんと丁寧な言葉遣いで接してくれたことか。あれだけの実績があり、30以上も年下の大学生に対して、一人前の大人と接するように敬語で接していただき、逆に背筋が伸びたことを思い出します。本当に感謝なのです。そんなミノルさんも現世から旅立たれて数年が経ちました。

20数年前、ミノルさんには二人の息子がいて、大学生のぼくは、その子どもと遊んだりもしました。そのうちの一人が省念くんで、長い年月を経て、ミュージシャンとして出会いなおしたわけであります。そして、20数年ぶりに、こちらに戻って来ました。リハーサルの前、ミノルさんの遺影にお参りをしてきました。

明日のライブ会場は、拾得です。20年前、pou-fouの最後のライブをして以来、拾得に来ていませんでした。20年ぶりです。pou-fouの曲を省念くん達と演奏したくなり、ABを演奏することにしました。pou-fouとは、芥川龍之介の「河童」の中に出てくる河童の新聞の名前でもあり、フランス語の意味は、「狂ったシラミ」。省念くんのチェロ、良太くんのウッドベース、やぶさんのダルブッカと一緒で、素晴らしいサウンドです。他に、省念くんの曲や、やぶさんの曲もやります。ぼくのピアノソロや、やぶさんとのデュオもします。濃密なリハーサルでした。明日が楽しみです。