野村誠の作曲日記

作曲家の日記です。ちなみに、野村誠のホームページは、こちらhttp://www.makotonomura.net/

24年前の若者

祇園祭の後祭の山鉾巡行を観に、ちょっとだけ町中に出て、その後、鰻を購入して、無事、土用の丑の鰻で昼ご飯を終えて後、日本センチュリー交響楽団の稽古場へ。

16時から稽古が始まる練習室Aに向かう。練習室Bの前に座っている何人かの人がいる。何かの関係者だろうと、気に留めずに進むが、練習室Bに「メイコーポレーション様」と書いてあって、この名前、どこかで聞いたことがある、と気になり、あ、三枝成彰さんだ、と思い出し、戻って、ご挨拶する。

作曲家の三枝成彰さんは、24年前にpou-fouというバンドでソニーのオーディションに出た時に、審査委員長をしておられて、ぼくのバンドを面白がってくれて、グランプリにしてくれた人だ。その後、すぐにご自身が司会をするNHKのテレビ番組「私たち新音楽人です」にて、紹介してくださった。あれが、ぼくの初のテレビ出演だった。出演者が、葉加瀬太郎ブーニンpou-fouという組み合わせの音楽番組は、今でもあり得ない、と思う。そして、あれ以来、24年間、三枝さんと再会することはなかった。

覚えていないと思って声をかけてみたが、三枝さんは覚えておられた。「京大生の変なバンドで、ホルンがいたよな。君たちは、とんがり過ぎてて、時代がついて来てなかったよ。えっ、まだ作曲やってるの?食えないだろう?」と三枝さん。24年前、ぼくは23歳で大学卒業間近で、今日のワークショップに参加する若者達の年齢だった。当時の三枝さんは40代後半で、今のぼくくらいの年齢だった。三枝さんは、明日の桑名でのコンサートの打ち合わせで、センチュリーの稽古場に来ておられて、間もなく移動するらしい。お話するならば、今がチャンス。そう言えば、あの時、三枝さんに聞かれた。

「君たちの音楽は面白い。でも、面白すぎるから、世の中がついてこれない。だから、売れないし、食えないぞ。どうするんだ?」
「ぼくたちは食べるために音楽するつもりはないし、そのために、わざわざ売れるような音楽を目指すつもりもない。お金が必要ならば、ほかの仕事をしながら、やりたい音楽は続けます。」
と答えた。そのことを面白がって、三枝さんは番組の中でも、何度もコメントして下さった。当時の自分が、今日のワークショップの参加者と同様、仕事のあてもなく、未来に不安を抱きつつ、でも、自分の音楽をどう続けていったら良いか、全くビジョンがないまま、三枝さんの言葉に、反射的に言い返していたことを思い出した。そして、今日のワークショップの発表会を、三枝さんに聞いてほしいと思った。マネージャーの方が、既にタクシーを呼んでしまった、と言う。では、タクシーが来るまでの間だけでも、と言って、半ば強引に三枝さんを拉致するように練習室Aにお通しし、勢揃いしていないワークショップメンバーとセンチュリー響の楽団員を集めて、「今、そこで作曲家の三枝成彰さんと24年ぶりにお会いしまして、三枝さんは間もなくタクシーで出発されますが、タクシーが来るまでの間、聞いていただこうと思います。皆さん、やりますよ。準備いいですか?」と言う。準備できているわけないのに、いきなり演奏。トーンチャイムやホースや、弦にトロンボーンにスリットドラム。三枝さんは笑顔で鑑賞。途中、呼びに来たマネージャーを何度も制して、10分ほど聞いていって下さった。今日、この場にいる若者が、ぼくの年齢になっている頃、ぼくは三枝さんの年齢になっているのだ。25年後に、どこかで25歳年下の若者と再会できる楽しみがあるから、また、これから25年生きる楽しみがある。

これが、今日の一回目のコンサートだったのです。そして、ぼくはすっかり23歳だった当時の自分の気持ちを思い出して、20代前半の若者たちとのワークショップの最終回である今日を迎えることになりました。

そして、リハーサルを経て、ゲネプロをやって、いよいよ本番です。撮影舞台には、京都の加藤くん、福岡の泉山くんもいる。青山学院大の院生が、修論の研究のために取材に来ている。京都造形芸大のアートプロデュース学科の学生は、ワークショップ全日程を見学して、研究している。リハーサルが続くにつれて、昨年のワークショップに参加した若者が、一人また一人とやって来る。時代は巡り、人は年を重ね、経験を重ね、それも音楽の上に年輪のように刻まれていくのだ。リハーサルを聞いて、昨年の内容が土台になりつつ、新しく生まれ変わっていることを感じ取るOBの言葉がある。

それにしても、チェロやヴァイオリンやトロンボーンを初めて触った人が、6回のワークショップを経て本番を踏むなんて、無謀です。センチュリー響の楽団員7名と野村を含めた8名のプロの音楽家と、6名のアマチュアの若者による合奏なので、当然、プロの力量が高いので、8名の演奏のクオリティは高いのです。そこに、おまけのようにくっついた演奏ではなく、十分に存在感を出した演奏ができているなんて、実際にその場で体験しないと信じられないでしょうが、でも、そうなのです。どうして、初めてトロンボーンを吹く人が、あんなに良い音を出すのか?どうして、初めてのチェロで、あんなに表現できるのか?音階は弾けなくても/吹けなくても、表現はできるのです。自分のイメージの音を出そうと、集中することはできるのです。そして、センチュリー響ほど、初心者の人に楽器を触ってもらった経験を多く持っているオーケストラは、ほかにはないのでは、と思います。10年間、毎年、何十校もの子ども達を招いて、すべての子どもにオーケストラの楽器体験をさせてきたのです。体験用の楽器も数多く持っているのです。この10年間の経験の蓄積を、今回、思い知りました。

アンコールの演目は用意していなかったので、客席からソリストを募集して、飛び入りしてもらった。その人が、ブログに今日のコンサートのことを書いて下さっています。
http://ensemble-evan.com/hashidume/d150725/

野村誠が、日本センチュリー交響楽団と進めているコミュニティプロジェクト。絶賛成長中です。回を重ねるごとに、どんどんチームワークが良くなっています。これぞ、オーケストラです。今年度の後半は、豊中の庄内地区で展開するプロジェクトを予定しています。皆さん、参加も大歓迎です。