野村誠の作曲日記

作曲家の日記です。ちなみに、野村誠のホームページは、こちらhttp://www.makotonomura.net/

コンサート前日のリハーサル

2ヶ月のジョグジャ滞在も、残り4日。コンサートまで、あと1日。お昼の12時から、我が家にてリハーサルなので、お客さんに出すためのお菓子などを購入しに、午前中は買い物。客人をきちんともてなすのは、この国では重要なのだ。ということは、インドネシア人を日本に招く場合もそう。

昨日、リハーサルの後、ご飯も食べずにすぐに帰ったメメットさんが、譜面を書いてやってきた。コピーをとってある。手書きのメモ書きのような譜面だ。推測だが、昨日のリハーサルでメメットさんの曲をやらなかったのは、他の4人の曲の完成度が一気に上がったので、これはまずいと考えたためのような気がする。家に帰って、慌てて譜面を書いたのではないか。本番前日になって、メメットの曲は、全面改訂と言ってよいくらい変わった。途中で、鍵ハモの二人が演奏する和音も決めてきたし、途中で、鍵ハモ同士での会話の場面は、以前は完全に即興だったのに、リズムも指定してきた。ゴングやパーカッションのリズムなども、ほぼ即興だったに、色々確定してきた。しかし、渡された譜面を見ても、文字は達筆だし、結局口頭で説明されないと、解読は難しいのだけど。曲の最後には、ニョト先生がダラン(影絵の人形使い)の語りのようにして、放射能の危険性について語る場面までついた。ギギー君やウェリー君の曲が、非常に心地よいメロディーや軽やかなビートで喜びに溢れているのと対照的に、メメットさんの曲には異様な凄みや深みがある。それにしても、本番前日にして、大幅に変えるものだ。

ギギー君の曲も、さらに変更が加わった。昨日やった忙しい現代社会のメロディーは、最後の場面の喜びの踊りの場面のメロディーとなり、忙しい現代社会のシーンは、リズミカルな即興になった。こちらも、本番前日に、さらに曲が拡大していく。

くみこさんの曲をやる前に、既にウェリー君が自分の曲をアレンジしたくて、うずうずしている。楽器でフレーズをやって、それをギギー君に真似させて教えたりしている。「まずは、くみこの曲からだよ」と言われて、くみこさんの曲に。こちらは、昨日忘れていたルールを思い出す。しかし、全員でユニゾンのメロディーを繰り返す回数が、あやふやで、バラバラになっているのを、ギギー君が「これは、4回のはずなのに、さっきは6回やってる時とかあったけど」と言う。ぼくが、「4回が6回になると、問題ある?」と聞くと、くみこさんは「問題なし」と答える。こんなやりとりがあった後は、全員がきっちり4回で止まっるようになった。別に違ってもいいと言われると、ちゃんとやるところが、律儀だ。

ウェリーの曲は、さらにアレンジを加えていく。メメットさんに新しいフレーズを覚えさせようとすると、譜面に書いてある?と聞く。書いてないのに、急に前日に変えても、覚えられないし、間違えやすいから危険だよ、とメメットさん。曲を全面改訂してきた張本人であることは、見事に棚上げして、正論を言う。作曲家は、実は、もっと時間があったら、もっと曲を複雑にしたかったり、アレンジしたかったりするようだ。そして、どうも、直前になって、どんどん変えていきたくなるようだ。

ぼくの曲は、全然変えないでおいた。彼らは、ちょっと変更があったりする方が、新鮮にやれるのかもしれない。明日、本番当日に、曲に若干の変更を加えるべきか悩ましい。

ということで、12時集合で、お喋りから始まり、なんとなく全員がそろって13時には開始した練習は、結局16時半まで続いた。濃厚な時間。ジョグジャの作曲家たちが、どうやって曲を作り、どういうプロセスで練習を進めていくのか、どんどん謎が明かされていく。これで、本番はほぼ見えているつもりだけど、ここから、本番までがどうなるかも、まだ変更があるかもしれない、と思っておこう。明日は本番なのだが、朝8時に練習になった。みんな練習が好きなのと、早起きが苦にならないようだ。皆さんにご協力いただいている立場としては、朝8時は嫌とは言えないので、早起きを決意する。

夜に、ようやくフリーな時間ができたので、インターネットにつなぎにカフェに行き、アールグレイを飲む。ジャワのお茶もいいが、たまには気分を変えるのもいい。バンコクのアナンが18日、空港まで迎えに来てくれるとメール。作曲を教えているフランス人作曲家のJDからも、バンコクに来たら、即興音楽のワークショップやってね、滞在中にぼくのやってるバーでも演奏してね、とメッセージ。彼らが教えているシラパコーン大学の音楽学部長からも、FBの友人申請が来る。ヤバいなぁ。バンコクに行ったら、ちょっとのんびりして、徐々にプロジェクトを始めようと思っていたけど、アナンに会うのは4年ぶり、JDに会うのは6年ぶりで、1ヶ月の滞在の間に面白いことをしようと、彼らが企んでいないはずはない。有意義な交流があることは間違いないけれど、ジョグジャでの濃厚な日々が、そのままバンコクでも続く予感。バテないように、上手に休みながら進みたいものだ。