野村誠の作曲日記

作曲家の日記です。ちなみに、野村誠のホームページは、こちらhttp://www.makotonomura.net/

山本聖子個展 円の手ざわりはつるつるかざらざらか

京都三条にあるGallery PARCに、山本聖子の個展を観に行った。

ぼくは彼女の作品を一度だけ見たことがある。国際芸術センター青森で見た作品は、不動産広告の間取り図を切り抜いて貼り合わせた巨大なカーテン。しかし、細部を見ると、パーツは、微妙に違った形がパズルのように組み合わさっている。そして、そこに光が当たり、影が生まれる。微かな逞しさ、弱いけど強い、細かいけど大きい、この絶妙なバランスが作品の魅力を生み出していた。

インスタレーションを予想して、会場に入り、最初に目にとまったのは、一枚の写真だった。彼女は、写真もやるんだなぁ、と思いながら、何気なくその写真を見る。どこにでもある普通の光景。道路があり、歩道があり、家があり、、、、。しかし、なんだ、この世界は。縦の線と横の線。たて、よこ、よこ、よこ、たて、たて。でも、それが微妙に平行じゃなく存在したりしていて、見ているうちに、思わず微笑んでしまった。侘び寂びという言葉を持ち出すまでもない、世界のバランス。

間取り図のシリーズの新作もあり、鏡を使ったり、立体的になったり、また、前作とは違った味わいに仕上がっていた。世界はシンメトリーではないけど、全く無秩序でもない。シンメトリーほど、世界は単純じゃない。複雑で細かい美しさを持っているのだ。だから、彼女の作品は、一見シンプルなコンセプトでできているようで、繊細な複雑さや絶妙なバランス感覚でしか成立しない感性に寄る部分が非常に大きい。「円の手ざわりはつるつるかざらざらか」という問いは、突如「世界の中心に旋回するアンパンは笑うのか泣くのか」という問いに反転する。

均質なようで不均質な世界の味わい方を教わって帰ってきました。