野村誠の作曲日記

作曲家の日記です。ちなみに、野村誠のホームページは、こちらhttp://www.makotonomura.net/

だじゃれと人権問題

足立区80周年記念のイベントとして開催する「千住だじゃれ音楽祭」の準備のため、本日、千住に参りました。映像の三浦正宏さん(楽ファクトリー)、美術家の宮田篤さんと、だじゃレンジャー達と駄洒落を求めて、千住の町に繰り出し、ゲリラ的なロケを敢行しました。道で出会う人々に、「すみません。だじゃれを言って下さい。」と突然に声をかけたりするところから立ち上がる会話は、はっきり言って無茶ですが、それでも人々は反応してくれて、非常に面白かったです。答えていただいた方々、本当にありがとうございます。感謝です。

だじゃれを求めて町に飛び出したのですが、集まった駄洒落以上に面白かったのが、駄洒落を言えない言い訳でした。これが個人差があって、人によって全然違うのです。確かに、いきなり駄洒落を言えと言われても、言う方がおかしい。しかし、なぜ言えないのかの理由に、その人の思想、哲学、背景が垣間見えるのです。だじゃれを言えない理由だけを集めると、そこから、現代社会を浮かび上がらせるドキュメンタリーができそうな感じがしたのです。これは、予想外の収穫でした。多分、だじゃれを言えない理由を集めて、一作品が生まれてしまう気がします。このように、創作をしている過程で、予定外の展開が起こり、作品が変更されていくことこそ、創作の醍醐味です。

さて、その後、KGB Latin Jazz Orchestraという足立区で活動するサルサのサークルの練習を訪れました。これが、凄いノリがよかった。想定していない歓迎の式典で出迎えられたのですが、そこで、いきなり駄洒落のオンパレード。あまりのノリの良さに、感激し、「千住だじゃれ音楽祭」の出演依頼をしていまいました。そして、「ドミノだおし」をサルサのリズムでやってみました。

ドミ:ドとミを演奏
NO:ドとミ以外の音を演奏
打:打楽器だけ演奏
おしい:惜しい演奏

これが、なかなか良かった。3月16日のコンサートでは、ここに、だじゃれ音研メンバー、ゲストミュージシャン(=大田智美、梅津和時田中悠美子松原勝也)も加わりますから、凄いことになりそうです。その後、ミーティングで、3月16日のコンサートの大枠を話し合いました。

1) 野村誠作品(非だじゃれ音楽)
2) だじゃれ音楽傑作選集
3) だじゃれ音楽エキスペリメント(コラボ/異種格闘技
4)大団縁(だじゃれ音楽オーケストラ)

また、この日集まった10名ほどの野村チームのメンバーによれば、「私、だじゃれ音楽やってるんだ」と言うと、「何それ。やめといた方がいいよ。」と言われるのだそうです。なんと、ほぼ全員がそのような経験をしていたのです。もしも、「ウクレレやってるんだ」とか、「コンテンポラリーダンスやってるんだ」とか、「ヒップホップやってるんだ」とかだったとしても、「やめといた方がいい」とは言われないでしょう。でも、「だじゃれ音楽」は、やめておいた方がいいのです。「だじゃれ」というのが、虐げられた存在であり、差別されていることが、徐々に顕著になってきました。もはや、これは、人権問題と言えるかもしれません。だじゃれ=迷惑という図式を、社会全体が暗黙のうちに形成し、古来から継承してきた日本文学のエッセンスを無自覚に葬り去ろうとしている、というのは、大袈裟でしょうか?我々は立ち上がらなければいけないのではと、改めて、この企画の意義を強く感じたのでした。