野村誠の作曲日記

作曲家の日記です。ちなみに、野村誠のホームページは、こちらhttp://www.makotonomura.net/

ダジャレを考えていたら、数学が現れた

昨日の小金井(東京)での『あいのてさんコンサート』の大きな収穫は、「自業自得」という名前の新しい楽器が開発されたこと。に開催する予定の「第2回あいのてさんワールドミュージックフェスティバル」で、何らかの形で発展させたい。また、4月下旬〜5月上旬にかけて予定している「あいのてさんツアー」(関西、名古屋、金沢あたりを予定、現在、スケジュール調整中)でも、「自業自得」を発展させていきたい。

さて、京都の自宅に戻る新幹線の車内では、次のプロジェクト、3月17日「風呂フェッショナルなコンサート」に向けての作曲をする。


このコンサートは、3年前に福岡でやった「お湯の音楽会」を下敷きにしているが、

1)大きな銭湯で開催するので、福岡では数人規模の演奏(バンドや室内楽)だったのが、今回は40人という大規模の演奏(ビッグバンドやオーケストラ)になる
2)「千住だじゃれ音楽祭」の第1弾として、「ダジャレ作曲」を前面に打ち出していく

という2つが、コンセプト。そこで、現在、「ダジャレ作曲」中なのです。例えば、「風呂フェッショナル」だったら、

風呂→振ろう→振る楽器
フエッ→ふえ→笛→リコーダー
ショ→しょ→書
ナル→鳴る→、、、、、

というように、言葉を分解していくと、ダジャレ的に、笛が必要になってきたりします。そんな感じで、非常に文学的なアプローチで、言葉から音楽を想像する作業をしておりましたところ、新幹線の隣の座席に座った人が、パソコンを開けて、難解な数式を読みながら、ブツブツとつぶやき、それに合わせて非常にリズミカルに手を動かし始めたのです。それは、まるで、譜面を読んでいる音楽家のように思えたのです。数学って、こんなにフィジカルな音楽だったのだ、と初めて思いました。どちらかと言うと、腕組みして不動で、脳内で考えるのだと思っていたのですが、どうもそうではなかったのです。気になるので、こちらが怪訝そうな顔で見ていたのでしょう。「うるさくて、すみません」と謝られてしまい、せっかくなので、お話を伺いました。

新幹線の中で、ぼくは、極力隣の人に挨拶をしたりするのですが、シャイな人が多く、滅多に会話になりません。以前、お話した陽気なおじさんは、藤原誠さんという北欧で製作し、ドイツの美大の教授か何かをしている彫刻家でしたが、こちらの才女も、ドイツの数学研究所にいる研究員の方でした。

幾何学をやっているので、形をイメージするために、手が動いてしまう、とのこと。数学の魅力として、人間が決めた定義を出発点に、そこから、色々な物が決まっていくところが、面白いとおっしゃっておられました。フェルマーの大定理の証明なんて、数学を研究している彼女でも分からない、世界で何人分かるんだろう、とのことでした。

数学は数学者の世界で完結していて、社会との接点は少ないのかもしれませんが、あの数学をイメージしながら、手を動かしブツブツつぶやいている様子が、あまりにも音楽でありダンスであったので、今すぐではないですが、いつか、幾何学の音楽」という音楽映像作品を作りたい、と思ってしまいました。

ダジャレ作曲をしている時に、あなたこっちもやりなさいよ、と宇宙人からメッセンジャーを派遣されたような気分で、非常に抽象的な数学の美について、ぼくは音楽にできる役割を担えるのかな、と思いました。そうです。25年前に、大学で数学を学ぼうと思っていた時の気持ちを、少しだけ思い出したのでした。