野村誠の作曲日記

作曲家の日記です。ちなみに、野村誠のホームページは、こちらhttp://www.makotonomura.net/

老人ホームにて

本日、NPO芸術資源開発機構の企画で、東京の上井草園で、お年寄りとの音楽の「アート・デリバリー」の講師をやりました。

1時半から2時半という1時間で、おやつやバスのお迎えなど、時間が決まっている枠の中で活動しなければいけないところを、強く希望して、1時くらいから、なんとなく集まった人から開始して、2時半を過ぎても、帰る人から帰っていく、ゆるやかな時間で行いました。また、事前にプログラムを決めずに、その場で出てきたアイディアに合わせて、即興で進める心得や野村の考えについて、前日の職員さんとのミーティングの時間に、長々とお話させていただきました。その成果があって、準備したプログラムを行うのではなく、お年寄りとの対話の中から活動が立ち上がってくる場になりました。

詳しくは、スタッフの方々が映像などでも記録をされて、ドキュメントをまとめられるようなので、いずれ、そちらを参照しただければ、と思います。ぼくにとって印象的だったのは、

北国の春」を演奏して欲しいと、言われたお年寄りがいまして、ぼくは、今年の北国は、震災があって、本当に大変な春だったでしょう、どんな「北国の春」だったのでしょうね、と言ってから、非常にしっとりとピアノを弾いたのです。すると、お年寄りの一人が、戦争中に食料の配給に2時間並んで、でも、自分の番の前に終わって、食べ物がもらえなかった、とか、話し始めるのです。小学3年生だったの。でも、食べ物がもらえなくても、文句も言えない、せっかく食べ物をもらっても、帰り道に警察に会うと没収された、とか、別の男性も話し始める。「2時間並んだけど、何ももらえなかった」とピアノを弾きながら歌い、そこに「白樺、青空」と歌う。大自然は普通にあり、そこに、人間のエゴや苦しみや協力の話が交差する歌が重なる。

そんな一場面がありました。

みなさま、素敵な時間をありがとうございました。