野村誠の作曲日記

作曲家の日記です。ちなみに、野村誠のホームページは、こちらhttp://www.makotonomura.net/

ギギー君の新曲「Kampung Halaman」

 ギギー君が、新作ピアノ曲の譜面を届けてくれました。「Kampung Halaman」がタイトルです。Kampungが田舎、Halamanは庭とかなので、「故郷」といった意味でしょうか。これが、良い曲でした。冒頭は、ジャワのゴング風、途中から出てくるメロディーは、アチェスマトラ)のダンス風らしいです。少しバルトークルー・ハリソンの音楽なども想起させるシンプルな曲で、美しい。早速、練習をしました。
 ギギー君から、ガムラン音楽に関する本を4冊借りました。彼は西洋音楽科の作曲科で学んだのに、伝統音楽について、とても勉強しています。一冊は、アメリカのガムラン協会が出してる「バルンガン」というガムランジャーナルの2004年に刊行されたもの。これは、英文での論文や、ガムランの楽譜などが掲載されていて、Rahayu Suppangahの英文での論文も載っていました。
 あと、もう一冊、アメリカから出ているMARC PERLMAN 「演奏されない旋律  ジャワ・ガムランとその音楽理論の発生(Unplayed Melodies - Javanese Gamelan and the Genesis of Music Theory)」 という本も面白そうです。この本は、ジャワ・ガムランの基本的な楽器間の関係について概説した上で、3人の音楽家を取り上げ、Suhardiさんが教える時に、ガイドとして導入した歌(lagu)、Sumarsamさんが教える時に「内なるメロディー(Inner Melody)」と呼んだもの、さらにSuppangahさんが教える時に「エセンシャル・バルンガン(essential balungan)」と呼んだものを比較しながら論を進めていき、そこから導き出されるものが、インドネシア以外の音楽にも適応できるか、について論じて終わっているようなのです。この本の興味深いところは、ジャワ人がアメリカ人に教える上で使った便宜的な説明で現れてきた実際には演奏されないけれども、各パートの装飾を導き出すガイドになるメロディーラインを、3者3様の説明で理論的に語ったところだと思います。この3人も、ジャワ人相手には、こんな教え方はしなかったのではないか、と思うのです。
 もう一冊はインドネシア語で、SUMARSAM 「ガムラン ジャワでの文化の相互作用と音楽の発展 (Gamelan -Interaksi Budaya dan perkembangan di Jawa)」という460ページもある大作。ざっと目次を見た感じでは、イスラムが到来する以前のヒンドゥー時代の歴史から始まり、イスラムの影響、植民地支配を受けた時代の影響や中国文化などの影響を論じ、西洋文化との相互作用を論じた上で、最後に現代のガムランの理論をまとめているようです。例えば、ギギー君が線を引いていたところで、15世紀頃に、ポルトガルの影響なんていうのもあったりするのかな?彼が線を引いているところを拾い読みするだけでも面白いかもしれません。そして、モチョパットという詩吟の本がもう一冊。いろいろお勉強しようと思います。