野村誠の作曲日記

作曲家の日記です。ちなみに、野村誠のホームページは、こちらhttp://www.makotonomura.net/

Pesan dari Jogja untuk Jepang(ジョグジャから日本へのメッセージ)

 インドネシアジョグジャカルタ市で、震災復興を応援するためのイベント「Pesan dari Jogja untuk Jepang(ジョグジャから日本へのメッセージ)」を開催しました。
 風邪でふらふらでしたが、イベントが終了と同時に、風邪も治りました、そして、とんでもないイベントになりました。こちら興奮しておりますが、良いイベントであったことは間違いない。良いメッセージを日本に届けられると確信します。
 パルディマン氏による祈りパフォーマンスは、ジョグジャ芸大の伝統音楽科の大学生が、ガムラン楽器などで伴奏し行われました。これに、ビモさんの舞踊が入る予定だったそうですが、ビモさんが都合がつかなくなり、スボウォさんが祈りの舞いを舞いました。パルディマンさんの祈りも素晴らしかったが、スボウォさんの舞いの集中力の高さは、凄かったのです。世界と対話する舞踊。ぼくは、この舞いを観る観客になるのではなく、この祈りに参加したい、と思いました。客席の中で、この祈りが日本まで届き、災害後の東日本の復興を、スボウォさんと一体化して祈ろう。だから、この舞踊を観ることを放棄して、ぼくは精神統一をして一緒に祈りました。目をつぶって祈るけれど感じられる。しかし、本当に素晴らしい美しい舞いでした。妻は、あまりの素晴らしさに泣いていたようです。非常にスピリチュアルな儀式であり、非常に美しい舞踊でした。
 ぼくの報告は、主に宮城のこと、えずこホールのことを中心に、被災している仲間達からの話をしました。話に合わせて、えずこホールでの、「十年音泉」、アート屋台プロジェクト、ホエールトーン・オペラなどなどの写真のスライドを交えて報告になりました。で、スライドを見やすいように気をきかせて、照明が暗くなりました。インドネシア語の原稿を読みながらのスピーチだったのですが、ただでさえ、大変なインドネシア語のスピーチ、暗くなって、ますます、大変でした。でも、日本の被災者の仲間の声を、伝えていかねば、という強い意志のもと、とにかく、無我夢中で観客の集中力を引きつけようと頑張りました。発音が悪くて、意味が分からないところもあったかもしれませんが、仙台のヨシピロさんの日記から引用した「みんなお風呂入っていないから、美人の人でも汚いです」という一節のところで、笑いをとることができ、手応えを感じました。ジョグジャも2006年に被災しているので、こうした事情は分かってもらえて、嬉しかったです。
 被災している人々と共に、これから長い時間をかけて、復興をしていきます。復興というのは、もとに戻すことではなく、その中で、色んな問題点を変えていったり、もっと良い世界/社会を築いていくことでもあるはずです。そうした復興(=再創造)のために、ぼくたちは、亡くなられた方々のご冥福を祈り、良き未来を作っていこうという決意でインドネシアで祈るのです。そのためのエネルギーを日本に送ることが、今日の会の目的なのです。こんな状況でぼくたちに何ができるのか?アートに何が可能なのか?と問いました。そして、災害に苦しんでいる人々に、物資が必要であり、と同時に、心の薬も必要で、復興のための心の薬を一緒に送りましょう、と呼びかけました。スピーチの終わりの方で、感極まって涙がでてきて、これではいけない、暗くて読めないのに、ますます原稿が読みにくくなり、声が聞き取りにくくなるではないか、と踏みとどまりながら、読み続け、なんとか最後まで、お客さんに聞いていただくことができました。その後、司会者の人が出てきて、
「おちついて、おちついて」
と笑いをとりながら、ぼくに言ってくれたのが、さすが、と思いました。相当、テンション高く喋っていたのでしょうね。
 そして、えずこの仲間へのメッセージを1m × 3m の布に書いてもらうことに。これが、本当に、すごいいい感じで、お客さんが次々に書いてくれて、嬉しかったです。ぼくのスピーチを受けて、みんなが被災した友人達に向けて、応援のメッセージを書いてくれている。そして、舞台の下手側には、バリ島にいるから来られないはずのパッ・プラプトがいるではないか。舞踊家でスピリチュアルな世界との対話を極めインドネシア舞踊界のカリスマで国際的に活躍している巨匠。
 「今朝、バリから戻って来た」
とパッ・プラプトは微笑する。彼がここに存在すること自体が、その後のパフォーマンスに大きく影響したに違いない。
 そして、最後のパフォーマンスが開始された。日本人留学生たちが、ジャワの詩吟「モチョパット」の災害を浄化する詩を吟じ始める。神聖な場が始まるが、観客は、布にメッセージを書きながら、雑談モードの人も多い。そんな感じで、いつの間にか始まったパフォーマンスは、ジョグジャの舞踊家たちの底力を感じさせるものでした。とにかく、キャラの濃い舞踊家が、次々に現れて、即興をするのですが、ルールのないカオスです。でも、そこに、スピリチュアルなお祈りなどがあることで、成立していくような場。ヨーロッパなどではあり得ない混沌の即興ですが、そこには、とてつもないエネルギーがあり、その場を制御しようとするどころか、皆が身を委ねていく。それは無責任ではなく、不思議な安心感のある混沌のエネルギーなのです。
 写真をいくつかペーストしますので、ご想像下さい。
 たまたまジョグジャに来ていた大阪芸大の学生も竜笛、篳篥で参加したり、撮影などでも助けてくれました。ヒカリさんがバナナの木や葉っぱで舞台セットを作ったり、マミさんやそのお友達が、画像のプロジェクションを準備してくれたり、色々な人が、足りない部分を補いながら、なんとか成立したイベントでした。
 復興に向けて、大きな勇気をもらい、ぼく自身が元気になりました。このエネルギーを、これから長い時間をかけて、少しずつ宮城にフィードバックしていこうと思います。

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