野村誠の作曲日記

作曲家の日記です。ちなみに、野村誠のホームページは、こちらhttp://www.makotonomura.net/

ジャワのヴァレンタインと雨

とんでもない快晴。焼けつくような日差しの朝。王宮にイブイブ・ガムランの演奏を聴きに行く。イブというのは、お母さんという意味なので、ママさんガムラン、おばちゃんガムランといったところか。王宮は、観光客や学校の引率の子どもたちなど、人がいっぱい。インドネシアは人口が多い国だが、人の多さに酔いそうになり、日差しにクラクラする。そんな中、屋根のあり風通しの良いプンドポでガムランを聴くと、涼しく心地よい。イブイブというから、もっと下手なものを想像していたのだが、予想以上に上手な演奏だった。

外国人観光客もいっぱいいる。外国人観光客の耳になってガムランを聴いてみよう。一度、ガムラン音楽に関する知識を捨てて、知らないふりをして、演奏を聴いてみる。こういう条件を設定した方が、変に知識で聴かずに、純粋に今鳴っている音をそのまま楽しめたりする。次に音楽がどう進展していくかも、知らないふりをしながら、いちいち驚いてみたりする。さらには楽器が見えない想定で、どんな楽器で演奏しているのかを、音だけから想像してみたりする。そんな聞き方も楽しい。

最近は、ジャワ・ガムランのスレンドロという音階のチューニングについて、個人的に研究中。イブイブ・ガムランのペロッグ音階の《12456》の曲を聴いて、この音階、意外にスレンドロ音階の《12356》と近親関係あるなぁ、と思った。どうして、そんなことを思ったか、というと、たまたま、ぼくのガムランチューニングの鍵盤ハーモニカでは、ペロッグの《12456》をずらすと、スレンドロの《12356》になるのです。スレンドロ《12356》で演奏する曲を、ペロッグ《12456》に置き換えて演奏すると、ちょっと感じが変わって面白い。富岡さんが、古い曲だとペロッグとスレンドロが混ざっている、というようなことを言っていたけど、ペロッグの《12456》とスレンドロ《12356》を併用するのは可能かも。

その後、灼熱の中、芸大まで行って、ピアノを使わせてもらうための書類を提出。偶然、ガムラン演奏家のパッ・シスや、音楽心理学者のパッ・ジョハンにも会う。ジョハンさんは、既に、今度の土曜日に、ぼくがマングナン小学校に行くアレンジをしてくれていた。仕事が早い。パッ・シスの家に、ガムランがあって、一度遊びにおいでよ、と言ってくれる。学食でサテや揚げたてのテンペが美味しい。キャンパスで日本語が上手なインドネシア人と出会う。ところが後で判明したところ、インドネシア語が上手な日本人だった。よく考えると肌の色も薄かった。

カフェで4日ぶりにインターネットに接続。カフェに入ってしばらくすると、雨季特有のスコール。濡れずに済む。日本からのメールには大雪と書いてある。寒さが想像がつかないくらい蒸し暑い中、メールの返信をする。雨が収まってから家に帰る。雨季が終わる日が待ち遠しい。家に着いて、しばらくすると、どしゃぶりの雨が再びやって来た。良いタイミングで帰って来た。これだけ雨が降ると、一気に気温が下がり、涼しくなる。雨の音を子守唄に、1時間半ほど、寝てしまう。目が覚めると、20時15分。相変わらずの大雨。今夜は出かけたくないな、と思い、家でご飯にする。すると、ご飯を食べ終わると同時に、雨が小降りになり、やむ。

せっかく雨がやんだので、ワヤン(影絵芝居)を見に行く。ちょっとした村の集会場のようなところで、鉄のガムラン一式で、影絵芝居をやっている。見に行くと間もなく、また大雨が降って来た。どうして、屋根のあるところに入ると雨が降り、移動するときは雨がやむのだろう?インドネシアで心がけていることの一つは、無理しないこと。無理をして疲労をためたりすることが、体力を奪われ、食中毒など病気になりやすくなるので、疲れたら休む。面倒くさかったら無理に出かけない。自分の身体に正直に動くようにしている。それがいいのか、大雨をことごとく回避。ここのスレンドロ音階は、佐久間家のスレンドロよりも3や5の音が明らかに低い。低い6と3は5度、2と6は5度、1と5も5度の関係になっていた。スレンドロは、楽器のよって、全く別の音階だと言っても過言でないくらい違う。少なくとも、ぼくの耳には全く違う。ひょっとしたら、スレンドロ音階は、3種類くらいあって、そのどれかなのではないか?作る楽器職人だか調律師だかによって、田舎流スレンドロとか、正調スレンドロとか、流派があるのではないか?そんな気にすらなる。

帰る時になったら、雨があがっていた。