野村誠の作曲日記

作曲家の日記です。ちなみに、野村誠のホームページは、こちらhttp://www.makotonomura.net/

中学生のガムラン

ジョグジャから30キロほど離れた郊外にある中学校に行く。そこで音楽教師をしているパルチアントから、「私の生徒に会いにきて下さい」と何度もオファーがあったので、ついに行くことに。
朝9時頃、学校に到着。生徒は制服着用。音楽室に行くと、ガムランの楽器が、ほぼフルセットある。スレンテム、サロン系の楽器、ボナン、ゴン、クンプール、クノン、クトゥ、クンピャン。これらは、全部、金属打楽器。それに、クンダンという太鼓。壁にはルバブという弦楽器が一つかかっている。電子キーボード1台、(アコースティック)ギター2台、(エレキ)ギター1台、アンプ1、ドラムセット1。以上が音楽室にある楽器。

9時20分頃、授業の休み時間か、生徒が音楽室に何人もやって来て、ガムランを練習する。前に、2曲楽譜が貼ってあるのだが、左の方はダンドゥット風の曲らしく、右のは伝統曲。生徒はみんな左のを練習する。そのうち、ドラムセットとガムランで演奏を始めるが、これが単純だけどノリがある良い即興。9時半頃、これらの生徒は授業なのか、戻って行った。

9時40分頃、また、別のクラスが休み時間なのか、やって来て、ガムランをやる。やっぱり左の曲だけを嬉しそうに練習して、ドラムをやる子どももいて、そして、10分ほどやったら、帰って行く。

10時頃、パルチアントに連れられて、校長室へ行く。歴代の校長先生の写真が貼ってあるのは、日本の校長室と同じ。校長先生は、口数少なく、2、3質問をしてくるが、シャイな感じで、典型的なジャワ人。一学年230人程度で、3学年。各学年6クラスあるらしい。つまり全部で18クラス。それを34人の常勤の先生が教えている。

10時30分頃、音楽室に戻ると、突然、授業が始まる。1年生(12歳)38人のクラス。男子14人、女子24人。そのうちブルカを着用しているのは4人。イスラム国とはいえ、ほとんどの女の子は、素顔を見せている。15年前にワークショップに来た時は、全女子生徒はジルバブ着用だった。パルチアントに聞くと、あれはイスラム教の学校で、着用が必須だったらしい。そして、パルチアントが授業をするのかと思ったら、突然、ガムランのスラマット先生が現れ、授業を開始。左側のダンドゥット風の曲は一切やらず、右側の曲のみを45分やり続ける。驚いたのは、楽器をやる生徒は、12人。残りの26人は曲の途中に出てくる歌と手拍子。途中で交代もなく、ずっと同じ楽器を担当。先生は歌の指導は全然しないで、楽器の指導に専念。歌は終始音程が不明の叫ぶような歌。暇を持て余した女子生徒が、手を叩く時に、アルプス一万尺のようにして叩いているのが、個人的には面白かった。

11時15分、一つ目の授業が突然終わって、次のクラス(こちらも1年生)と入れ替わる。こちらのクラスに到っては、ジルバブ着用の女子は一人もいなかった。さっきのクラスと同じ曲をやる。こちらのクラスは、ある程度演奏が上達したと先生が判断したのか、途中で、歌の人と楽器の人が交代した。交代したら、全然できないのか、と思ったら、同じようにできる。先生がやりたい人と聞いて名乗り出た人が楽器をやっていたので、楽器が苦手な子は、ずっと歌の担当になりそうだ。こちらの授業は11時50分に突然、終了。

その後、音楽の授業はないようで、ご飯を食べた後、職員室へ。英語の先生という人が英語で喋りかけてくるのだが、なかなか訛りがきつく、意味の判別が難しく、インドネシア語で話してもらった方が理解しやすい。

13時20分頃、生徒は下校を始める。希望者のみ、水曜日の午後と、金曜日の午後に、ガムランのクラブ活動があるらしい。日本によくある吹奏楽部みたいな感じで、音楽好きな生徒が集まって来る。こちらは、希望者が参加しているので、レベルが高い。20人くらい。伝統曲だけでなく、新しい曲をやっているらしい。13時半、定刻にクラブ活動開始。まず、一曲目。なかなかノリノリな曲。1曲仕上がったところで、スラマット先生が、ぼくの紹介タイムを設ける。生徒達は、恥ずかしそうに質問。鍵盤ハーモニカのソロ演奏をやったら、大歓声。パルチアントの歌を歌ったら、大爆笑。

スラマット先生は、続いて、別のガムランの曲も指導。決して上手ではないし、洗練なんかされていない喜びに満ち溢れている子どもの野蛮な鉄のガムランの賑やか響きを、ぼくは気に入ってしまった。14時半頃、2曲目も仕上がったところで、短い休憩。ぼくは、生徒にパルチアントってどんな人と、ノートを手渡し、単語を書いてもらうことに。ramah(にこやかな)、kreatif(創造的な)、asyik(面白い)、baik hati(良い心の)などと書く。こちらの子どもは、冗談でも失礼な言葉を書いたりはしない感じだ。

その後、スラマット先生の指導は、バリ風の曲をやった後、ついに、今朝自由時間に人気だったダンドゥット風の曲に。と思ったら、クラブの子どものアンサンブルで聞くと、全然違う曲に聞こえて、驚く。あ、この曲、知ってた。でも、初心者の演奏だと、知ってる曲も知らない曲に聞こえたりするのが面白い。

最後に、生徒にパルチアントについての単語を文章にまとめてもらった。この文章をもとに、インドネシア語学習ソングを作ろうと思う。クラブは15時に終了。その後、記念写真大会が始まった。

帰って、中学生の言葉を歌詞に歌をつくる。

Pak Parjianto itu orangnya baik hati,
ramah, pintar, kreatif, asyik
tapi kalau muridnya nakal sekali
dia suka marah-marah
tapi hanya pura-pura

意味は、

パルチアント先生は良い人です。
やさしく、かしこく、創造的で、最高。
でも、生徒がひどい悪さをすると
彼は怒りっぽい。
でも、怒ってるふりをしてるだけ。